関東大震災から1日で100年。モータリゼーション(自動車の大衆化)が進んだ今日では、大災害時に大量発生する被災車両の処理が自治体や自動車業界の課題に挙がる。政府は東日本大震災の経験も生かし、法的な枠組みや処理指針などを整えた。自動車リサイクル業界でも被災車両の回収や処理などに関するノウハウを積み上げる。

今後、発生が想定される首都直下地震や南海トラフ地震などの大規模地震への備えを怠ることはできない。将来、予測される甚大な被害を少しでも軽くし、1日も早い復興につなげるため、引き続き、官民が一体となった取り組みが求められる。

環境省によると、2011年3月11日に発生した東日本大震災では約30万台の被災車両が発生した。この数字は岩手、宮城、福島の津波浸水地域にあったと想定される車両数から仮置き場に搬入された数を差し引いたものだ。このうちリサイクル処理されたのは約7万台。残りは海に流出して海底ゴミになったと見られる。

自動車リサイクル業界は、震災発生後から総力を挙げて被災車両の回収や廃車処理などに取り組み、震災から約1年3カ月後には処理をほぼ終えた。

当時は、自動車リサイクル事業者を悩ませる課題が幾つも浮上した。例えば、エアバッグ類など、自動車リサイクル法に基づいた処理が難しい被災車両が多数発生した。津波の衝撃で車両は原形をとどめておらず、車内に蓄積した汚泥の除去も含め、法令に沿った処理が可能な被災車両は少なかった。また、被災車両の回収や運搬、処理にかかる費用負担と保管、作業場所の確保なども難題だった。

こうした教訓を踏まえ、政府は14年、自治体に向けた「災害廃棄物対策指針」を策定した。災害時に発生する廃棄物の処理を適正かつ迅速に行うための「平時の備え」と、発災直後からの応急対策、復旧・復興対策を行う際に参考となる必要事項をまとめたものだ。18年には広島で発生した土砂災害や熊本地震など近年の災害の知見をもとに改定した。指針では「廃自動車の処理」として、被災車両の回収や運搬、処理などに関する基本的な考え方も示す。

同指針で、自治体における被災車両への対応は「自動車リサイクル法に基づいて被災車両を撤去、移動し、所有者または引取業者(自動車販売事業者、解体事業者など)に引き渡すまでの仮置場での保管が主な業務となる」と明記した。がれきなど、他の災害廃棄物とは異なる対応が必要になる。

自動車リサイクル促進センターでは、自治体向けに「被災自動車の処理に係る手引書・事例集」を18年に作成し、その後に改定も行った。「災害廃棄物処理計画」の策定や災害発生時の参考資料として活用してもらいたい考えだ。

東日本大震災の被災車両の回収・運搬などに携わったある自動車リサイクル事業者の代表者は、事業者と自治体が災害時の協力支援協定を結ぶなど、あらかじめ非常時の対応方法を構築しておくことの重要性を指摘する。また「県単位での対応だけでなく、市区町村の担当者との密接な連携と、情報共有の仕組みづくりが非常に重要だ」とした。