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2023年8月28日

「大学見本市2023」4年ぶり開催 電動車想定した試作品や新技術披露

科学技術振興機構(JST、橋本和仁理事長)が主催する国内最大級の産学連携イベント「大学見本市2023」が24、25の2日間、東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれた。リアル開催は4年ぶり。世界的な電気自動車(EV)シフトは大学などの研究にも影響を与えており、電動車を想定した試作品や新技術が多く披露された。

特に目立ったのが電池や軽量化などに関する研究成果だ。鳥取大学(鳥取県鳥取市)の薄井洋行准教授は、次世代型とされる「ルチル型酸化チタン負極材料」を紹介した。ルチル型酸化チタンは安価で埋蔵量も豊富だが、電子導電性に乏しく、拡散方向が限定されるなどの課題がある。

薄井准教授はルチル型酸化チタンの多結晶構造を単結晶化し、拡散をさえぎる「粒界」をなくして拡散性を改善した。また、不純物元素や価数の低い元素を添加して結晶の物性を変化させ、電子導電性も高めた。全固体電池やナトリウムイオン電池への応用を視野に入れた研究も進め、一定の成果が出ているという。薄井准教授は「車載用電池に応用する場合、低温特性の性能も求められるためこれから検証する」と語った。

このほか、東京電機大学(東京都足立区)はリチウムイオン電池の寿命を延ばす負極材を紹介した。米子工業高等専門学校(鳥取県米子市)は、2㌔㍗時/㌔㌘を超えるエネルギー密度を持つ有機硫黄系正極活物質を披露した。

車両の軽量化に関する研究も活発だ。芝浦工業大学(東京都江東区)は、アルミやマグネシウムなどの耐久性と耐食性を高める「水蒸気プロセス」を出展した。アルミ合金を高温・高圧の水蒸気にさらし、表面に水酸化物や複水酸化物といった高耐食性の被膜を形成させる技術だ。同時に金属内のミクロ組織の原子一つひとつを制御することで、強度や延性などの特性も向上させたという。担当者は「自動車関連企業から引き合いがある」と語った。

熊本大学(熊本市中央区)は、実用金属として最軽量のマグネシウム合金に高い強度と延性、難燃性を持たせた「マルチ機能マグネシウム合金」を展示した。熱伝導率は広く使われているアルミ合金「ADC12」の1・3倍と高く、発火温度は1050度と難燃性にも優れる。耐食性は一般的なアルミ合金の一種である「AZ91D」と比べて約2倍という。髙見宏美・研究コーディネーターは「LEDヘッドライト用ヒートシンクなどへの活用を想定している。自動車部品の軽量化に役立つ」と説明した。

電池や軽量化以外の電動車向け技術では、九州工業大学(北九州市若松区)がプリント基板を利用した電流センサーを披露した。従来の電流センサーと比べて10分の1の価格とサイズで、後づけも可能という。ポリイミド材料を用いており、250度の高温にも耐える。大村一郎教授は「すでに3、4社から引き合いがあり、(電流センサーを使った)サービスも提供している」と語った。実際にEVのパワーモジュール内の各チップに流れる電流の計測事例を紹介した。

九州大学(福岡市西区)は、タマリ工業(下玉利淳也社長、愛知県西尾市)と共同で開発している機械学習を利用したレーザー溶接機と制御システムを展示した。EVなど電動車のモーターやバッテリー製造への応用を想定する。

会場では「大学発ベンチャー表彰2023」の表彰式も行われた。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の斎藤保理事長は「大学見本市が、大学シーズと企業との出会いの場となることを期待している」と語った。

カテゴリー 展示会・講演会
対象者 大学・専門学校,自動車業界

日刊自動車新聞8月26日掲載