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2023年7月12日

広がる電動車の災害時「電源」活用 系列超えた支援枠組み構築へ

大容量の駆動用電池を搭載した電気自動車(EV)などの電動車を災害時に「電源」として活用する動きが広がっている。トヨタ自動車は、給電できる車両の避難所への派遣を依頼したい自治体と、電動車を配車可能な販売店とをつなげる独自のシステムを開発し、一部の自治体で実証実験を行っている。全国のトヨタ系列販売店では各自治体と災害時の連携協定の締結を進めており、今後、システムを活用した効率的な電動車の派遣につなげたい考えだ。

また川崎市では、三菱自動車の販売店も同システムを通じて電動車を派遣できる仕組みを採り入れている。トヨタは系列を超えた災害時支援の枠組みも広げていく。

トヨタは、EVをはじめハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド(PHV)、燃料電池車(FCV)の20車種以上に給電機能を設定している。特に「プリウス」「アクア」といった量販車種に100㌾、1500㍗の非常時給電システムを標準装備とするなど、「給電車」の普及に力を入れている。トヨタによると、国内の全給電対応車を合わせた電力供給量は、小規模火力発電所約10基分、300万世帯以上の1日分に相当するという。

電動車の給電機能を災害時に活用しようと、全国のトヨタ系列販売店は各自治体と災害時の連携協定を結んでいる。電動車の派遣をよりスムーズに行うためにトヨタが開発したのが「給電車支援マッチングシステム」だ。2021年からスタートし、現在は豊田市と川崎市、札幌市の3つの自治体が導入、実証実験を行っている。

通常、電源車の要請依頼は電話やファックスによって行われ、要請を受けた販売店の窓口は派遣可能な電動車を各店舗に確認するなど手順が煩雑となっている。電源車が必要となるような〝有事〟においては、一連の手続きが混乱の中でスムーズに進まないケースも想定される。トヨタが開発したシステムでは、自治体の担当者は、給電車が必要な「場所」「時間」「台数」の3つを入力するだけで、簡単な操作で販売店への支援要請を可能とする。

アプリでは自治体が給電車派遣を依頼している避難所の位置や必要な台数、派遣可能な電動車を持つ店舗などを地図上に表示し、台数や距離感などを可視化することでマッチングを容易にする。災害時、販売店の本社が被災するなどして指示系統が機能しない場合でも、店舗の裁量で電動車を派遣することが可能だ。

他の自動車メーカー系列の販売店との連携も視野に入れる。22年には、川崎市の実証実験で三菱自の系列販売店もトヨタのシステムを活用して電動車を派遣できる枠組みを構築した。災害時連携協定は、EVやPHV販売で先行する日産自動車や三菱自の販売店も全国の自治体と結んでいる。トヨタ系列と重複している地域も多いことから、系列を超えた連携が欠かせない。

マッチングシステム開発のきっかけは、19年9月の台風15号で発生した千葉県を中心とする大規模停電だ。停電が長期化する中でトヨタも多くの電動車を派遣し給電機能の優位性が発揮された一方で、派遣先の情報が把握しづらく車両が滞留してしまうケースもあった。

また、電源車を派遣するスキームがなかったことで「販売店に電動車があることは分かっていたが、それをうまく活用することができなかった」(担当者)という。システムを活用することで、より効率的で細やかな災害時支援が可能になりそうだ。

カテゴリー 社会貢献
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞7月8日掲載