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2023年6月16日

脱炭素研究進むモータースポーツ 誰よりも速く環境にも優しく 

カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)への機運が高まる中、持続可能なモータースポーツの実現に向けた動きが国内で広がっている。「スーパーGT」では、「カーボンニュートラルフューエル」と呼ぶ合成燃料の使用が今シーズンからスタート。「スーパーフォーミュラ」ではタイヤやボディーの原材料の一部に、植物由来の天然素材などを使い始めた。

「スーパー耐久シリーズ」では水素を燃料にするマシンが参戦中だ。「走る実験室」であるモータースポーツ。環境負荷の軽減につながる技術開発を担うことで、社会的意義を高めようとしている。

5月26~28日、富士スピードウェイで行われたスーパー耐久の第2戦「富士スーパーテック24時間レース」。ここでトヨタ自動車は、液体水素エンジンを搭載する「GRカローラ」をデビューさせた。これまで気体水素を燃料にしていたが、今回から液体水素に変更。航続距離を2倍に引き上げた。ガソリンと同じように充てんができるようになったことで、ピットストップ時間の短縮を実現した。

トヨタがモータースポーツで水素燃料車を走らせるのは、カーボンニュートラルの実現に向け、パワートレインの多様な選択肢を確保する技術開発を進めるためだ。今回のレースではマイナス253度という極低温状態で作動する燃料ポンプの耐久性に課題が残ったが、今後も過酷なレースの現場で技術を磨くことにより、実用化に向けた道筋を付けていく考えだ。

今回の24時間レースにはトヨタだけでなく、スバル、マツダ、日産自動車、ホンダがカーボンニュートラル燃料を使うマシンを走らせた。レースを通じて技術的課題を洗い出し、克服することで、内燃機関エンジン搭載車の脱炭素化に即効性のある次世代燃料の普及を後押しする。

同燃料は、スーパーGTでも導入を始めた。今シーズンから最上位の「GT500」クラスに、独ハルターマン・カーレスが「ETSリニューアブレイズGTA R100」を供給している。セルロース(植物ごみ)から生成した炭化水素と酸素含有物から造られ、燃料性状やオクタン価は日本のガソリンエンジンの規格に適合。無鉛プレミアムガソリンと同等の性能を実現しているという。

国内外のさまざまな車種が参戦する「GT300」クラスへの採用は来期以降だが、スーパーGTが同燃料の活用を進めるのは、将来に渡り「音のあるレースをする」(GTアソシエイションの坂東正明社長)ためだ。モータースポーツの魅力の1つのであるエンジン音を未来に残すため、自動車メーカーや参戦チームなどが一丸となって取り組んでいる。

スーパーフォーミュラでは、タイヤサプライヤーの横浜ゴムが、サステイナブル素材を33%使用するレーシングタイヤを供給中だ。ドライ用タイヤには天然ゴムと、アブラヤシの実やオレンジの皮から生成したオイルなど自然由来の配合剤を活用。合わせて、リサイクル鉄や廃タイヤから再生したリサイクルゴム、マスバランス方式の合成ゴムを採用することで、実現した。

また、同レースには伊ダラーラ製のシャシーが採用されているが、ボディーカウルなどには麻由来の天然素材を使ったバイオコンポジット素材が使われている。スイスのBcomp社製で、昨年1年間を通じて熱や水、強度などに関する実証テストを繰り返してきた。今シーズンから本格導入し、タイヤとともに脱炭素化を推し進めている。

モータースポーツにおける脱炭素化の動きは、フォーミュラ・ワン(F1)など世界選手権でも加速している。レースを通じて自動車業界のカーボンニュートラルにつながる技術を磨き、人を鍛え上げることが、持続可能なモータースポーツの実現につながることになる。

カテゴリー 社会貢献
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞6月7日掲載