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2023年6月15日

離合集散繰り返す商用車メーカー 膨らむ研究開発費

フォルクスワーゲン(VW)グループの商用車メーカーのトレイトンとの業務提携を解消した日野自動車が、ダイムラートラック傘下の三菱ふそうトラック・バスと経営統合することで基本合意するなど、商用車メーカーの再編が加速している。2019年にはいすゞ自動車がボルボトラックグループとの提携で合意し、その後、傘下にあったUDトラックスを買収している。大きな成長が見込めない限られた市場の中で、商用車メーカーが合従連衡を繰り返す理由とは。

5月30日にトヨタ自動車と子会社の日野、ダイムラートラックと子会社の三菱ふそうの4社は、商用車分野で提携することで基本合意し、日野と三菱ふそうが24年末までの経営統合を目指すことにした。

日野のエンジン認証不正に関する海外での訴訟リスクがあるため、経営統合が最終的には破談になる可能性もあるものの、計画を実行できれば日野の商用車販売が約25万台、三菱ふそうが約15万台で、合計40万台規模の商用車メーカーが誕生することになる。商用車市場での世界シェアは10%強にとどまるものの、日本と東南アジアを中心に高い存在感を持つ。アジアでのシェア拡大を目論んでいる中国系の商用車メーカーは神経をとがらせることになる。

ここにきて商用車の業界地図は大きく塗り変わっている。いすゞは19年に、ボルボトラックとの包括的な業務提携を結ぶとともに、ボルボトラック傘下にあったUDを約2500億円で買収することで合意した。さらにいすゞは21年3月、18年に提携解消したトヨタと再び資本提携して、日野を含めた3社が商用車関連事業で協力していくことで合意した。

これを機にトヨタが中心となって設立されたのが商用車の脱炭素化を含めて物流問題の課題解決を目指すコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT、中嶋裕樹社長、東京都文京区)で、日野、いすゞに加え、後に軽商用車を手がけるスズキ、ダイハツ工業も参画している。ただ、エンジン認証不正問題で日野はCJPTから除名されている。加入していない三菱ふそうが日野と経営統合した後、どう対応するかも現在のところ不透明だ。

また、いすゞはホンダと燃料電池分野で協業している。ホンダの燃料電池技術が進んでいるためで、27年には燃料電池システムを搭載した大型トラックの市場導入に向けて共同開発に取り組んでいる。ホンダは商用車事業そのものを手がける気はないものの、燃料電池車(FCV)の普及は商用車が有望視されることから、いすゞと提携することにした。

他にもいすゞは、19年に米国エンジンメーカーのカミンズと電動商用車分野で提携、カミンズの電動パワートレインを搭載した中型トラックを事業化する方針だ。また、日野はエンジン認証問題で北米市場で販売できなくなったトラックのエンジンについて、カミンズから調達することで販売再開に漕ぎつけている。

海外でも商用車業界の再編が進んでいる。ダイムラートラックは、ライバルであるボルボトラックと燃料電池分野で提携、21年3月には商用車向け燃料電池システムを生産する合弁会社を設立した。同年にトレイトンは、米ナビスターを買収した。

しかし、戦略的業務提携していた日野とは今年4月、具体的な成果を見出せないまま、提携を解消した。日野が三菱ふそうとの経営統合の話が進んだためと見られる。米国のパッカーグループは5月、トヨタと燃料電池分野での協業を拡大することで合意した。

商用車業界の再編が加速している理由は大きく2つある。1つはカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に向けた規制強化だ。EU委員会(欧州連合)は2月、大型車の二酸化炭素(CO2)排出量を30年に19年比45%、40年に90%削減する規制案を公表した。都市バスについては30年までにゼロエミッション(ZEV)化する案を示した。乗用車のZEV規制を推進してきた米カリフォルニア州も3月、35年までに大型車の半分以上をZEVにする方針を公表した。

日本の貨物部門のCO2排出量は、自動車運輸部門全体の4割を占めており、脱炭素化が求められる。しかし、長い航続距離が求められる大型車を電気自動車(EV)にするには重量のある電池を大量に搭載する必要があり、輸送効率が悪化するため、EV化するには電池を含めた新しい技術が求められる。長距離輸送用に燃料電池トラック・バスの実用化も期待されているが、EVトラックを含めて巨額の研究開発投資が必要になる。

「今はあらゆる可能性を捨てずに研究する。選択肢を絞り込み始めるのは25年ごろになるだろう」(片山正則会長)とするいすゞは、30年までにカーボンニュートラル対応に向けて1兆円を投じて合成燃料や交換式電池トラックなどの研究開発を進める計画だが、それでも投資は十分とは言えない。商用車各社はライバルを含めて他社とさまざまな分野で提携し、研究開発投資を分担しつつ、技術を進化させることを狙っている。

商用車業界の合従連衡が加速しているもう一つの理由がグローバルで競争力の高いプレーヤーの変化だ。中でも存在感を増しているのが中国系商用車メーカーだ。大型トラック市場で長らく世界トップだったダイムラートラックは20年に中国・東風汽車に首位の座を明け渡した。東風汽車以外も販売上位に中国系商用車メーカーの顔が並ぶ。

さらに昨年12月にはEV専業のテスラが大型EVトラック「セミ」の納車を開始し、商用車市場に参入した。小型EVトラック分野では、日本市場を含めて各市場でスタートアップ企業が相次いで参入している。

カーボンニュートラルに対応する次世代環境技術に向けた研究開発投資が膨らむ一方で、競争が激化している商用車業界。乗用車と比べれば決して大きいとは言えない世界で、今後も離合集散を繰り返すことになりそうだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞6月14日掲載