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2023年6月07日

迫る「2024年問題」 全国トラック協会や大型車ディーラー、支援活動推進

トラックドライバーの時間外労働に対する上限規制の適用まで1年を切った。全国のトラック協会や大型車ディーラーは輸送量の減少が予想される「物流の2024年問題」への対応策として事業者向けのセミナー開催など支援活動を進めている。ただ、事業者間では対応状況や危機意識にバラつきもみられるようだ。

働き方改革関連法に基づき、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の上限が年960時間に規制される。日本経済への影響が大きい2024年問題がクローズアップされる中、業界では制度の周知徹底を図る動きが本格化してきた。

東京都トラック協会(東ト協)は会員向けに発行する「東京都トラック時報」で2024年問題の解説記事の連載を開始した。今後は会員企業の好事例も紹介する。

大阪府トラック協会(大ト協)が4月に実施した2024年問題の合同相談会には会員企業から50人以上が参加した。講師による概要説明で制度への理解を深めた。7月には基礎セミナーを開催する予定だ。

広島県トラック協会(広ト協)は昨年に2024年問題をテーマにしたセミナーを実施した。今年は原価計算セミナーを9支部中3支部で開催する。

愛知県トラック協会は、愛知運輸支局や名古屋商工会議所などと2024年問題がテーマの講演会を開催する。運送業界の現状や2024年問題への具体的な取り組み事例などを紹介する。

業界団体以外でも東北地区の大型車ディーラーが運送会社に2024年問題の出前勉強会を案内するなど、周知徹底を図る動きは広がりをみせる。ただ、「対応を始めていない事業者もある」「まだ危機感を持っていない会社も多い」などの指摘も聞かれるように大手と中小では取り組み状況や意識に温度差があるようだ。

トラックドライバーは他産業と比べ長時間労働で、低賃金ということもあり人材確保が難しい。上限規制の適用で1人当たりの走行距離が減り、物流の停滞を招かないよう国土交通省は事業者が持続的に事業を行う際の参考となる「標準的な運賃」を定めた。事業者は運輸支局に運賃料金変更を届け出れば、取引先に申し入れ・交渉できる。

大ト協はセミナー開催や交渉用パンフレット作成などの効果もあり、事業者が大阪運輸支局に標準的な運賃を届け出た件数の割合は全国平均を上回る。届け出た上で交渉した事業者は「着実に成果が出ている」(大ト協)という。

広ト協は荷主や一般消費者に標準的な運賃を認知してもらい、取引の適正化を求めるテレビCMを放映している。埼玉県トラック協会は標準的な運賃の届出を行った事業者には健康診断の助成費用を増額するなど届出を促進する施策を講じている。

九州トラック協会(九ト協)は、トラック事業者の経営環境や業界の課題などを説明するパンフレットを6月下旬以降に会員に配布する予定だ。客観的なデータをまとめた交渉材料を準備し、荷主や荷主団体に2024年問題への理解と協力を呼び掛ける。

各トラック協会は人手不足解消への支援策にも力を注ぐ。東ト協は昨年度、2024年問題による人材不足の危機を訴えるメッセージ入りの広告を一般紙に3回掲載した。

高知県トラック協会は現在、会員の約半数に人材の不足感が出ている。このため、全日本トラック協会が打ち出している若年ドライバー確保や働きやすい職場認定制度などの支援事業を推進している。

15年からは毎年、県内の高校在学生5千~6千人に運送事業をアピールする旨を記したクリアファイルを配布。ハローワークとの連携強化や、自衛隊退職者に対する県内運送事業者への再就職あっ旋などにも取り組んでいる。

九ト協はオペレーションの見直しによる待機時間の短縮など、生産性の向上やドライバーの負担軽減に結び付く対策を荷主とも協力して進める考えだ。同協会の西正博専務は「労働機会が減少し収入が減れば、現役ドライバーの離職を招きかねない」と危機感を強くする。

2024年問題は自動車輸送への影響も大きい。日本陸送協会北海道支部の試算では、今回の上限規制で労働力が不足すると、運べる車両の数は19年に比べ2割減る見通しという。同支部は輸送効率向上への対策を新車ディーラーなどと連携して模索。車両配送先の集約化や中継ヤードの開設を呼び掛けている。

特に北海道は積雪期と新車販売の最需要期が重なるため、冬季の輸送効率が悪くなる。同支部の舟橋薫支部長は「新車供給量の増加に伴い、中古車の輸送量も増える。観光需要の回復でレンタカーの都市間輸送も拡大するため、手を打たなければ商品車輸送への影響は避けられない。まずはできることから対策を進めてほしい」と訴える。

東北地区では「トラック協会を脱退する法人が急増している」という。大手の運送会社がM&A(企業の合併・買収)を加速しているのが理由だ。一方、中小は燃料やタイヤ、油脂類などの価格高騰で、2024年問題まで手が回らないのが実情。2024年問題を機に大手と中小の事業間格差が広がる可能性もある。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞5月31日掲載