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2023年4月06日

自動車メーカー 電動車用駆動モーター、レアアース使用量抑制へ

自動車メーカーが電動車に搭載する駆動用モーターからレアアース使用量を抑制する動きを本格化している。日産自動車はSUVタイプの電気自動車(EV)「アリア」で永久磁石を使用しない巻線界磁式を実用化したが、2025年にはレアアースの中でも特に希少な重希土類の使用量を1%未満に抑えた永久磁石式同期モーターの実用化を目指している。

また、いすゞ自動車は新型「エルフ」のEVに永久磁石を使用しない誘導モーターを採用した。日本で使用しているレアアースは地政学的なリスクのある中国に依存しており、レアアース使用量を減らしてリスク軽減を図る。

ハイブリッド車(HV)やEVなどの電動車の駆動用永久磁石式同期モーターには、レアアースであるネオジムやジスプロシウム、テルビウムといった重希土類の材料が使用されている。レアアースを使用することで耐熱性を向上でき、高い駆動力や発電力を得ることができるためだ。

レアアースは、世界的な電動車シフトや風力発電といった再生可能エネルギーの普及などによる需要増加で価格が高騰しているのに加え、世界の生産量の9割を中国が占めている。10年に尖閣諸島で発生した中国漁船衝突事故では、中国政府がレアアースの対日輸出を制限したほか、最近も米中摩擦を受けて、中国はレアアースの対米輸出規制を打ち出すなど、調達リスクは高い。

双日とエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、豪州の鉱山で採掘する重希土類を日本向けに供給する契約を結ぶなど、レアアースを安定調達する動きもある。ただ、電動車シフトによってレアアースの需要は今後も増加する見通しで、サプライチェーンの安定化に課題が残る。

こうした中で、自動車メーカーやモーターメーカーは、車載用モーターへのレアアースの使用量を削減する技術の開発に本格的に取り組んでいる。取り組みの一つが非同期の誘導モーターだ。誘導モーター自体は以前から実用化されている方式で1990~2000年代前半の電動車で実用化されていた。

しかし、レアアースを使用することで磁石の弱点である耐熱性を確保し、小型で高トルクを生み出せる永久磁石同期モーターの登場で、誘導モーターは廃れていった。しかし、レアアースの価格の急騰や調達リスクの高まりを背景に、誘導モーターが見直されている。アウディが18年に市場投入したEV「eトロン」に搭載され、モーターメーカーも誘導モーターの開発に注力している。

商用車メーカーのいすゞも誘導モーターの採用に踏み切る。市販する小型トラックのEVにZF製の誘導モーターを採用する。小型化では永久磁石同期モーターの方が有利だが、コストと調達リスクを考慮して誘導モーターを選択した。

ジスプロシウムなどのレアアースを使用する永久磁石を使用しない同期モーターもある。日産のアリアに搭載したモーターは巻線界磁式と呼ばれるもので、ローター(回転子)に永久磁石を使用せず、巻線で作ったローターの界磁用コイル(電磁石)に電流を流すことで磁界を作りだす。ルノーのEVで実用化している技術をベースに開発した。高速走行での高回転した場合も効率が落ちないメリットがある。

ただ、コイルに直接電流を流すためのブラシ機構のスペースが必要となるため、サイズは大きくなり、コストも高くなる。このため、日産はレアアースの使用量を削減した永久磁石同期モーターも開発している。

重希土類の配置を最適化する「粒界拡散技術」などの開発を進めるとともに、ローターの表面形状を見直し、モーター鉄心部で生じる鉄損を70%削減する目標を掲げる。25年に実用化する次世代モーターではレアアースの使用量1%以下にする。

車載用リチウムイオン電池と比べ、コモディティー化が進み、早くも価格競争に入っている面もあるモーターだが、技術革新の余地はある。自動車メーカーやモーターメーカーはEVやHVなどの電動車の競争力を左右する重要な部品として技術開発を加速している。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞3月29日掲載