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2023年3月22日

日本交通科学学会 「疾病と自動車運転」テーマにシンポジウム

医学、理工学、行政などの専門家が参加し交通安全の研究を推進する日本交通科学学会(JCTS、有賀徹会長)は、都内で疾病と自動車運転をテーマに「第16回交通科学シンポジウム」を開催した。疾病を抱える運転者の就労支援や、運転中の体調異変に伴う事故の防止技術などについて4件の研究成果を発表するとともに、パネルディスカッションを行い課題解決の方策を議論した。

有賀会長はシンポジウムの冒頭「病気そのものの話に加えて、(運転に関連した)お年寄りに関することなどを含めて連続的な観点で聞くと良いと思う。すべての人にとって重要な話になる」と述べ、交通安全のさらなる高度化に欠かせないテーマであることを強調した。

成果発表では、まず滋賀医科大学社会医学講座教授の一杉正仁氏(JCTS副会長)が「疾病を有する自動車運転者の就労―現状と課題について」をテーマに登壇した。タクシーおよびトラック事業所を調査したところ、ほとんどの事業所が復帰のサポートを行い、第三者機関の判断などを通じ運転の可否を客観的に確認したいと考えていることが分かった。さらに運転支援装置の普及が復職の促進には必要で、運転者自身、医療従事者、事業所が一体となった対応が求められるとした。

公立諏訪東京理科大学工学部の國行浩史氏は「体調急変時の緊急停止装置について」を発表。日本の交通事故統計データを用い、てんかんや心疾患など健康に起因する交通事故の現状とその特徴を分析するとともに、ドライバー異常時対応システム(EDSS)の確実な操作に向けて、ドライバーの体調急変を考慮したスイッチの設計が必要だと提言した。

関西大学社会安全学部の伊藤大輔氏は「疾病患者の自動車運転に関する世論調査」をインターネット上で行い、一般ドライバーおよび職業運転手の回答の傾向の比較した。一般、職業運転手ともに、体調検知・危険回避技術があっても「体調が急変し運転困難になる可能性がある人の運転」に否定的な意見が多数を占めた半面、これらの技術の知識がある人は使用したいとする人が多かった。この結果、技術の社会受容の醸成に向けて適切な情報発信を行う必要があるとした。

慶應義塾大学総合医科学研究センターの馬塲美年子氏は「職業運転者の傷病と復職―近年の判例からの検討―」がテーマ。雇用継続・復職を求める職業運転者と、健康起因事故のリスクを抑えたい事業者の間の雇用問題について、近年の判例を基に法的判断を検討した。その上で人材不足が深刻な運輸業界では「2024年問題」を控え、傷病後の運転者の復職支援が必要だと提言した。

パネルディスカッションは一杉氏をコーディネーターに、全日本トラック協会の大西政弘氏と國行氏、伊藤氏、馬塲氏が疾病者の復職と支援拡充について意見を交わした。

JCTS副会長の三宅康史氏(帝京大学医学部救急医学講座教授)はまとめで「技術の進歩と社会のコンセンサスづくりが重要で、一つひとつ進めていかなければいけないことが改めて示された」と述べ、今後も医理工の研究者が集うJCTSならではの知見を生かし、課題解決に貢献していきたいとした。

カテゴリー 展示会・講演会
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞3月16日掲載