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2023年3月10日

「自動車事故被害者救済対策のあり方に関する検討会」が報告書

1955年の自動車損害賠償保障法(自賠法)の制定以来、自動車損害賠償責任保険および自動車損害賠償責任共済(自賠責保険)、政府保障事業により、国土交通省は自動車事故で生命や身体が害された場合の損害賠償を保障する制度を確立し、被害者の保護や支援対策、事故防止対策などを推進してきた。

現在の被害者支援対策や事故防止対策は2001年に自賠責保険における政府再保険制度を廃止するといった自賠法など改正の際に確立された制度に則り、政府再保険制度で生じていた累積運用益などを財源として必要な対策を講じてきた。

しかし、被害者らからの施策充実を求める声を聞き、医療・介護技術の進歩や介護者の高齢化などの情勢変化も踏まえ、22年7月に「今後の自動車事故被害者救済対策のあり方に関する検討会」で報告書をまとめ、今後の被害者支援の充実に向けた方向性が示された。

被害者支援や事故防止の対策の充実に対するニーズは高まっているが、その財源は運用利率の大幅な低下で01年改正の制度設計時に想定していた水準の運用益収入を得ることが困難となっている。

さらに1994年、95年の自動車損害賠償責任再保険特別会計(現在の自動車安全特別会計保障勘定、自動車事故対策勘定)から一般会計への繰入金の残額が2023年度末見込みで約5880億円あるが、一般会計の厳しい状況を踏まえると18年度から再開された一定の繰戻しが継続されても自動車事故対策勘定に設置されている積立金は早ければ十数年程度で枯渇する恐れがある。

有限の積立金だけに依存する構造では、現在の水準の被害者支援・事故防止対策の持続可能性を将来にわたって見通すことも難しい。こうした状況から今後の自動車事故対策勘定のあり方を検討し、被害者支援対策などの充実を図りつつ、対策を安定的に継続する財源のあり方について議論を重ねた。

22年1月には今後の自動車事故対策勘定に関し、一般会計の繰戻しの継続を前提に賦課金を拡充し、安定的な財源確保で被害者らが安心して生活できる社会を実現するとした中間取りまとめを行った。これに基づき、「自動車損害賠償保障法および特別会計に関する法律の一部を改正する法律案」が同年6月に国会で可決・公布され、検討会は今後の被害者支援対策などとして実施すべき施策、拡充する賦課金の水準などを検討した。

被害者支援・事故防止対策は、01年改正前で自賠法上、明確に位置付けておらず、政府再保険制度に付随的なものとして実施していた。01年改正時、政府再保険の累積運用益を活用してきた被害者支援対策などは、自賠責保険ではできない分野への対応を図り、自賠責保険と相まって自動車事故対策の充実に貢献してきた。

政府再保険制度廃止後もその必要性は変わらないとの観点から自賠法上、01年改正後は政府再保険制度の廃止の際に残った累積運用益の使途として行うべきとの政策判断に基づいて行うものに位置付けが変わった。これを踏まえ、現行の自動車事故対策事業に係る規定は自賠責保険と相まって被害者支援などを図るものと自賠法に位置付けられ、累積運用益という有限財源で実施する措置であることを踏まえ、当分の間の措置として位置付けられた。

現行の被害者支援対策などを「当分の間」の措置として位置付けた01年改正の際、財源である累積運用益が不足した際の取り扱いは01年改正での国会審議において「賦課金方式を含めて追加財源の検討を行わねばならない」などとされ、賦課金制度の導入の可能性を含めて検討するとされた。

現時点における自動車事故対策勘定の積立金の水準、今後の被害者支援対策など充実の必要性、一般会計の厳しい財政事情を総合的に勘案すると、有限の積立金に依存する構造から新たな財源の検討が必要とされた。 

01年改正時、積立金の運用利率は2%程度を想定し、積立金の運用益収入で毎年度の事業費相当額を得て、長期にわたり現行の自動車事故対策事業を実施できる見込みだった。しかし、その後の金利動向が予期しない水準に落ち込み、改正時の前提が成り立たず当初のスキームは崩れ、取り崩しによって積立金が大きく減少している。

交通事故の減少に伴い負傷者数は減少しているが、毎年発生する重度後遺障害者数は横ばい傾向で、長期にわたって支援を必要とする者が相対的に多くなると見込まれる。また、介護者の高齢化も進み、被害者やその家族らが求める支援のニーズは受傷直後の専門的治療を受けられる機会確保に加え、介護者が介護できなくなった後の事故被害者の生活支援などへの対応も高まっている。

一般会計に自動車損害賠償責任再保険特別会計から繰り入れた約1兆1200億円のうち、約5880億円が繰入れられたままとなっている。繰戻しは徐々に行われているが、新型コロナウイルスへの対応など一般会計の財政事情は厳しい状況にある。

繰入れられた累積運用益は01年の制度改正時に被害者支援・事故防止対策に使うべきものと整理され、引き続き財務省には全額の繰戻しを求める必要があるものの、まとまった金額が自動車安全特別会計に繰戻されることに期待して事業の長期的な継続性を図り、施策の拡充を考えることは現実的といえない。

これらの状況を踏まえ、現在、当分の間の暫定的な位置付けで国交省が実施している現行の被害者支援・事故防止対策を恒久的なものと位置付け、被害者を長期的に支える支援の充実と事故防止対策に万全を期することが必要不可欠だ。

まずは一般会計から自動車安全特別会計への繰戻しが実施されるべきである。一般会計への繰入金は税金ではなく自動車ユーザーが加害者となってしまった時に備えて支払った保険料を原資とした運用益だ。 財務大臣と国土交通大臣間の合意で一般会計からの繰戻額の増額と返済に向けた道筋が提示され、繰戻しと賦課金は同時進行で進めていくべきで、大臣間合意において繰戻しを継続するとともに繰戻額の目安をロードマップとして示すべきとの考えも示されている。

事故被害者らへのリハビリ環境の整備などの支援や、「介護者なき後」対策の充実などの対策を講じるためには事業規模を相当程度拡充することが必要であり、23年度以降は約200億円程度の規模感が必要とした。この次の議論として積立金の取り崩し、一般会計からの繰戻し、賦課金の財源のベストミックスのあり方、どのような財源構成で被害者保護増進等事業を実施することは適当かどうかが求められる。

23年度以降の被害者保護増進等事業に係る財源構成の議論を行う前提として、これまでの議論および改正自賠法の附帯決議を踏まえ、一定期間で自動車ユーザーの負担抑制に活用するものの、自然災害への対応等臨時的な歳出に充てるために必要な規模(約500億円程度)を維持する期間では積立金の取り崩しは行わないことを念頭に財源構成の割合について検討。

積立金の取り崩しペースは自動車ユーザーの負担抑制を考慮し、重度後遺障害者の介護人材不足から、日本の人口構成上で高齢者人口が最大になるタイミングや自動車の技術進展なども考慮する必要があり、被害者支援において、短期間で賦課金額が見直されることは、事業の継続的実施に関する被害者などの不安を招く恐れがある。

こうしたことから、社会の大きな転換点になり得る2040年頃をめどに必要な規模の積立金確保も考慮し、財源構成のバランスを保てるように積立金を取崩すことが適当とした。

自動車1台当たりの賦課金額の検討では、被害者保護増進等事業に係る財源構成に係る検討結果に加え、今回拡充される賦課金が「被害者支援対策」と「事故防止対策」に活用され、従来の保障事業とは異なる性質のものであること、自動車ユーザーの負担を極力抑える観点から全車種一律・同一が適切か否かといった点を踏まえ、議論した。

加えて、車種ごとに1台当たりの事故発生件数や、運行によって生じる損害が異なることから自賠責保険料が大幅に異なっている点を踏まえつつも、制度が複雑になることを回避する観点から全契約台数の約4分の3を占める自家用乗用車(普通・軽)を中心に車種別の保険料を一定程度勘案し、自家用乗用車(普通・軽)のグループとは異なる2つのグループを設定することが適当とした。

被害者保護増進等事業の財源のうち、賦課金により確保する部分を賄うには、現在の自動車の台数を踏まえ、1台当たりの平均的な負担を125円とすることが適当とされた。この水準を考慮した上で、基準となる自家用乗用車に近い保険料のグループは125円、それよりも保険料が一定程度高いグループは150円(タクシー、事業用バス・トラック)に、一定程度安いグループは100円(二輪車)に設定することが適当とされた。

カテゴリー 交通安全,白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞3月6日掲載