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自動車産業インフォメーション

2023年1月06日

課題克服に挑む自動車産業 挽回生産本格化へ

自動車メーカーにとって2023年は勝負の一年となりそうだ。新型コロナウイルス感染拡大に伴う部品調達難や半導体不足などで生産制約を余儀なくされた22年から一転し、各社が挽回生産を本格化する。一時に比べ部品の調達環境が改善する中、安定的に車両を供給することで長納期化の解消を目指す。

依然としてコロナ禍や国際情勢など不透明な要素はあるものの、電動化やカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)、円安、資材価格高騰など直面する課題に全力を挙げて対応する構えだ。

22年の乗用車メーカー8社の世界生産台数は、半導体不足や新型コロナウイルス感染拡大に伴う部品調達難などの影響を受け、1月は前年同月比9・8%減とマイナスのスタートとなった。2月にプラス転換したが、3~5月は再びマイナスとなった。

上期は生産調整を余儀なくされるなど厳しい状況が続いたが、6月に4カ月ぶりのプラスに転じると、10月まで5カ月連続で前年を上回った。11月は中国の大幅減で6カ月ぶりに前年割れとなったが、8~10月は3カ月連続の2桁増と回復基調で推移した。同期間は、いずれも2桁減だった前年同月の反動が表れた格好だが、半導体の供給状況は以前に比べ改善傾向がみられる。

22年1~11月累計は2213万1551台で、21年実績(2355万4886台)との差は142万3335台。6月以降は200万台超えが続いているだけに、2年連続の前年超えは確実な情勢だ。22年は生産活動に大きな影響を与えた半導体だが、一時期の需給ひっ迫の状況から脱しつつある。

サプライヤーが自動車向けの供給量を増やしたほか、自動車メーカーが汎用品への代替や複数発注、半導体の使用量を低減する設計変更など対策を講じた成果が表れた。

ただ、半導体の供給量は改善傾向にあるとはいえ、コロナ禍前の水準には戻っていない。今後、自動車メーカーが挽回生産を本格的に進める上では半導体だけでなく、コロナ禍で調達が困難となった各種部品を含めて安定的に確保できるようサプライチェーン(供給網)の一層の強靭(きょうじん)化が課題となりそうだ。

22年は新型車の投入や量販車種の全面改良が相次ぎ、ユーザーの購買意欲が高まったことで新車の需要が拡大した。一方、稼働停止や生産調整が続く中で需要と供給のギャップが拡大し、長納期化に拍車がかかっている。この中で新車の受注停止や新型車の初期生産で確実に受注が見込める仕様への絞り込みなど納期短縮に向けた取り組みもみられる。

ただ、生産体制が不安定な中で、販売現場では新車を契約したユーザーに正確な納期を伝えられない悩みを抱えていた。これを受け、自動車メーカーでは納期CS(顧客満足)の低下を防ぐ新たな試みを始めている。

トヨタ自動車は受発注システム「J―スリム」を国内に導入する。ディーラーの受注データと生産計画を照合し、2年先まで納期を把握できるようにする。ディーラーはユーザーに正確な納期を伝えられるようになり、メーカーも受注残の情報を生産計画に反映しやすくなる。スズキも23年度をめどに正確な納期情報を実現する受発注システムを運用する予定だ。

挽回生産による供給量の拡大で納期短縮を図るとともに、納期CSの向上につながる仕組みを導入することでディーラーの顧客対応への負担を軽減する。

グローバルで事業を展開する自動車メーカーにとっては世界情勢の変化や各国・地域の規制強化への対応も重要課題となっている。特に22年は地政学リスクへの対応に迫られた。

ロシア軍によるウクライナ侵攻を受け、トヨタやマツダ、日産自動車などロシアに生産拠点を持つ日本のメーカーが相次いで事業撤退を決めた。各社とも世界生産に占めるロシアの比率は低く、業績への影響は限定的だったが、有事の際の経営判断の重要性が改めて問われることとなった。

中国事業もリスクをはらむ。22年11月には「ゼロコロナ」政策に伴う外出制限で社員が出社できなくなり、ホンダなどが現地工場の稼働停止や生産調整を余儀なくされた。

中国政府は抗議活動を受け、一部の都市でロックダウン(都市封鎖)を解除するなどゼロコロナ政策は緩和に向かっているが、物流が停滞するなど予断を許さない状況が続く。中国を経由しない部品調達への切り替えや中国で滞留する部品の日本への早期輸送などリスク回避の対策が重要となりそうだ。

一方で、中国の生産拠点を活用する動きも顕在化した。ホンダは現地合弁工場で生産する上級ミニバン「オデッセイ」を逆輸入し、23年度に日本で発売する方針だ。日本の自動車メーカーが中国で生産した車を輸入して販売するのは初めて。今後は従来以上にグローバルの生産拠点を有効活用する動きが広がる可能性もある。

米国では、北米で生産された電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)にのみ補助金を支給する「インフレ抑制法」の適用が23年に始まる。日本車は現時点で大半が対象外で、日本政府が米政府に申し入れている同法の修正が見送られれば、米国戦略を見直す必要も出てきそうだ。

欧州では22年11月に欧州連合(EU)の新たな排ガス規制案「ユーロ7」が公表された。二酸化炭素(CO2)排出基準の厳格化とともに、タイヤやブレーキからの粉じんも規制対象に加わった。適用は25年から乗用車などで始まる見通しだが、今後はEVなどでも規制対応が必要となる。

23年は電動車シフトが一段と強まりそうだ。トヨタと日産、ホンダが電動化戦略を表明したのに続き、マツダも22年11月に、30年までに累計1兆5千億円を投じる計画を発表した。「この3年間で本格的な電動化時代に対応するための技術開発に取り組む」(丸本明社長)方針で、地元広島の部品メーカーなどとも協業しサプライチェーンを強靭化する。

自動車メーカーが電動化戦略を強化するのは、世界的に想定以上のペースで電動化が進んでいるためだ。日本政府が掲げる50年のカーボンニュートラル実現に向け、メーカー各社は電動化を加速する方針だが、現時点で車種を絞り込んでいない。EVやPHV、燃料電池車(FCV)、水素エンジン車、カーボンニュートラル燃料も含めて多様な選択肢で対応する考えだ。

日本自動車工業会(自工会、豊田章男会長)が22年にまとめた50年のカーボンニュートラルに向けたシナリオ分析では、EVに特化しない多様な選択肢でもIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が求めるCO2排出量削減目標を達成する可能性があることを科学的に立証した。

自工会は分析結果を国際会議の場などで示すとともに、23年5月に開催されるG7広島サミットでも「日本らしいカーボンニュートラルの道筋への理解を獲得する」(永塚誠一副会長)方針だ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞1月1日掲載