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2022年12月22日

多様化する小型モビリティ 新たな移動手段、コストや運転マナーに課題

高齢化社会や公共交通の縮小、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)への機運の高まりを背景に小型モビリティやマイクロモビリティなどと呼ばれる新しい移動手段が注目されている。スタートアップ企業や異業種が相次いで小型電気自動車(EV)や電動キックボードなどを投入しているほか、大手の自動車メーカーも商品開発に意欲的だ。

これまで何度か盛り上がりを見せながらも普及には至らなかった小型モビリティはいよいよ定着するのか。多様化するモビリティの動向をまとめた。

一口に小型モビリティといっても、その形状や特性はさまざまだ。自動車に近いものでは、軽自動車の区分である「超小型モビリティ」の「型式指定車」と「認定車」、原動機付自転車の区分の1つである「ミニカー」の3種類が存在する。

車両サイズや出力制限に応じて分類されており、トヨタ車体の「コムス」(1人乗り)はミニカー、トヨタ自動車の「C+pod(シーポッド)」は型式指定車に属する。出光興産とタジマモーターコーポレーションも超小型モビリティの区分でEVの投入を予定している。

一方、〝人に近い〟乗り物では、「電動車いす」に分類されるシニアカーがすでに市場を形成しているほか、電動キックボードの普及が進む。このほか、立ち乗りの3輪モビリティはトヨタが2021年に「C+walkT(シーウォークティー)」を発売したほか、ヤマハ発動機も市場投入に向けて開発中だ。

法整備も進んでおり、20年に軽自動車の区分に超小型モビリティの型式指定車が追加されたのに続いて、24年までに電動キックボードが免許なしで乗れるようになる法改正が適用される。調査機関や企業による市場予測でも今後の成長を見込む数字が並ぶ。

矢野経済研究所は超小型モビリティと電動ミニカー、電動トライクの合計国内販売台数が30年に最大10万2700台に成長すると予測する(20年実績は510台)。

このほか、電動キックボードのシェアリングサービスを手がけるループは、「シェアリングのみで25年に国内の電動キックボード市場規模は約1兆円になる」と試算。

デザイン性や機能性を高めた電動車いすを手がけるウィルの池田朋宏日本事業本部執行役員本部長は、「歩きづらさを感じている高齢者は1200万人いるというデータがあるが、現在の電動車いすの市場は2万5千台に過ぎず、今後の伸びしろは大きい」と意気込む。

一方、それぞれのモビリティにも課題はある。超小型モビリティの型式指定車の第1号モデルとして20年に一部の法人や自治体に限定販売を開始したトヨタのシーポッド。22年には個人向けのリース販売を開始し、月間約100台程度を販売しているものの、価格は165万円からと軽自動車と変わらず、「お得感」は大きくない。

また、都市部の若者を中心に利用が進む電動キックボードも違反運転が相次いでおり、9月には初めて死亡事故も発生した。ループなどのサービス事業者も正しい利用方法の啓発活動に努めているものの、ルールを無視した運転をするユーザーは後を絶たない。

日本では13年に国土交通省が打ち出した超小型モビリティの導入促進事業に日産自動車やホンダが参画し、社会実装に向けた実証実験を実施してきた。ただ、「市場ニーズがつかみきれなかった部分があった」(本田技術研究所の安井裕司エグゼクティブチーフエンジニア)と、ホンダは実証実験に使用していた「MC―β(エムシーベータ)」を市販化することなく、プロジェクトを終えた。

しかし、ホンダは11月、30年をめどに高精度地図なしで公道や歩道を自動走行できる新しい小型モビリティの技術を確立すると発表。小型モビリティの開発プロジェクトが再び動き始めた。「市場環境は当時から大きく変わった」(同)という。

市販済みのモビリティも開発中のモビリティもビジネスモデルの確立や法整備など課題は多い。一方、四輪車、二輪車、自転車、歩行だけでは埋められないニーズもある。既存の移動手段の間に位置する新しいモビリティの開発が今後も加速しそうだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞12月19日掲載