会員向けクルマ
biz

INFORMATIONクルマの情報館

自動車産業インフォメーション

2022年12月21日

自動車メーカーとチューニングパーツメーカー カスタマイズ文化醸成に貢献

自動車メーカーとアフターパーツ業界による「共創」が活発になっている。走行性能を高める「チューニング」、内外装を自分好みに仕上げる「ドレスアップ」だけでなく、モータースポーツでも協業が進む。アフターマーケットは今や、自動車メーカーの事業戦略に欠かせない領域となった。チューニングやドレスアップはクルマの魅力を再確認し、クルマ好きを増やす役割も担う。こうした取り組みはカスタマイズ(合法改造)文化を醸成し、自動車市場の活性化にもつながる。

2011年11月初旬、静岡県御殿場市。トヨタ自動車系レーシングチームであるトムスの関連施設に、発表前の「86(ZN6型)」が持ち込まれた。日本自動車用品・部品アフターマーケット振興会(NAPAC、高瀬嶺生会長)に所属するメーカーを対象にした極秘の内覧会。会場では4台の86を測定器で自由に採寸することができた。

自動車メーカーが開発中の車両を公開するのは異例だ。トヨタが前例のない内覧会を開いた背景には「86が息の長いブランドとして成長していくにはアフターパーツの存在が不可欠」(トヨタ関係者)との思いがあったためだ。

この関係者は「車両の情報を早く伝えればパーツメーカーの開発も早くスタートできる。高性能でお買い得なアフターパーツが迅速に提供されることは、われわれメーカーにとってもいいことだ」と続けた。

もっとも、こうした取り組みは米国では珍しくない。米国自動車用品工業会が主催する世界最大級のアフターパーツトレードショー「SEMAショー」では、発売前の新型車を対象にしたカスタマイズパーツが当然のように展示される。

こうした取り組みも参考に、86を発売する際にトヨタとアフターパーツ業界が協議を重ね、内覧会の開催にこぎ着けた。トヨタはその後、アフターパーツメーカーとチューナー向けの試乗会も開いている。

内覧会から約2カ月後の1月上旬には「東京オートサロン2012withNAPAC」が開幕。今や当たり前になった自動車メーカーの出展とともに、複数のアフターパーツメーカーが発表前の86やスバル「BRZ」用のカスタマイズパーツを参考出品した。エンジン部品やサスペンションなど多数のパーツが並べられ、車両とともに来場者の注目を集めた。

その後、13年4月にはNAPACとトヨタが86の外装部品の設計データ(CADデータ)に関する無償提供契約を締結。バンパーやフェンダーなど、エアロパーツの開発において必要な外板パネルに関するCADデータの提供を受けた。その後、データ提供の範囲は内装や足回り、マフラーなどにも広がった。

この協力関係は、21年10月に発売された「GR86(ZN8型)」でも継続されている。発売前の6月に富士スピードウェイで行われた86とBRZの催事「86スタイルwith BRZ」では、HKS、キャロッセ、ブリッツ、トムス、サード、トラストなど有力パーツメーカーがGR86のチューニングカーを出展している。

市販品とは言え、NAPAC会員が提供するカスタマイズパーツは機能性や安全性、耐久性などを高水準で両立させていることが特徴だ。このため、ワンメイクレース「トヨタガズーレーシング(TGR)GR86/BRZカップ」へのパーツ供給と技術サポートも22年シーズンから行われている。

アマチュアドライバーによる「クラブマンシリーズ」ではアルミホイールと変速機のオイルクーラーが指定部品、デファレンシャルギア(差動装置)用のオイルクーラーが認定部品となる。プロレーサーも加わる「プロフェッショナルクラス」では、サスペンションとマフラーも対象となる。

トヨタをはじめ、スバル、マツダなども参戦する国内最高峰の耐久レース「スーパー耐久シリーズ」でも、NAPACが認定する部品の採用が規定されている。ブレーキやサスペンション、駆動系部品、車体補強部品といったパーツの認定基準をNAPACのASEA(オートスポーツ・アンド・スペシャル・エクイップメント・アソシエーション)事業部が作成。レースでは「ASEA基準認定部品」が使用できる。

NAPACの高瀬会長は自動車メーカーとの協業体制について、「こうした取り組みが続けばわれわれもビジネスにつながるし、自動車メーカーもアフターマーケットもウィンウィン。カスタマイズもさらに盛り上がる」と話す。

自動車業界は100年に1度の大変革期に直面し、日本自動車工業会などが中心となり、生き残りをかけた「仲間づくり」を進めている。高瀬会長は「その意味で『ジャパンモビリティショー』には注目している」とも話す。「アフターパーツ業界が呼んでもらえるかどうか分からない」としながらも、カスタマイズやモータースポーツ領域から自動車業界を盛り上げていく考えだ。

こうした日本の共創活動も10年を超えた。カスタマイズ文化の醸成・発展をはじめ、さまざまな形で自動車業界全体の活性化につながっているようだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞12月17日掲載