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2022年12月07日

夢の技術「倒れないバイク」いつ? 技術確立進める二輪車メーカー

〝倒れないバイク〟を二輪車メーカー各社が開発している。センサーで車体の傾きやハンドルの切れ角を瞬時に検知し、アクチュエーター(作動器)などで車体バランスを保つ。市販はまだ先のことだが、技術が確立すれば、潜在需要の掘り起こし以外にも、二輪車の可能性を広げることになりそうだ。

ヤマハ発動機は先月、「二輪安定化支援システム」を搭載した試作車を公開した。基幹部品は「6軸慣性計測装置」(IMU)」だ。車両の①前後②左右③上下の加速度と、④ピッチ(縦揺れ)⑤ロール(横揺れ)⑥ヨー(回転)の角速度を検出する。この情報を瞬時に演算し、ハンドルに取り付けたアクチュエーターや駆動力でバランスを保ち、時速5㌔㍍以下では自立できる。

ヤマハ発は、前二輪・後一輪という構造の「LMW(リーニングマルチホイール)」車(排気量125cc)を8年前に発売した。車体を二輪車のように傾けて(リーン)曲がる。二輪車のスポーツ性を維持しつつ、前輪を二輪にして安定性を格段に高めた。転倒が不安で及び腰だった潜在需要を掘り起こし、今は排気量850ccの大型車までそろえる。

二輪安定化支援システムのコストはまだ高いが、車体フレームを変えなくても取り付けられるという。国内の二輪免許の取得者数(大型二輪、普通二輪、原付の合計)は、2019年から3年連続で増えており、特に若年層や女性層の増加が目立つ。装着車が登場すれば、運転技量に不安を持つ人や、停車時に足で車体を支えにくい人などの背中を押し、新たな需要につながる可能性がある。

ホンダも昨年「ライディングアシスト2.0」の試作車を披露した。前輪に操舵用アクチュエーターを備えながら、サーボモーターを使用する「車体・後輪揺動機構」を持つ。倒れた方向と反対側に車体を動かし、復元力を発生させて転倒を防ぐ仕組みだ。二足歩行ロボット「ASIMO(アシモ)」の技術を応用した。前輪の操舵と車体のロールが自由になるため、自然な感覚でバランスを保つ。

倒れないバイクは海外でも二輪車メーカーやスタートアップが開発に挑む。BMWは18年に試作車を公開した。独ボッシュは、旋回中にガスを噴射して車体を路面に押しつけ、転倒を防ぐ技術を披露済み。この他にもフライホイール(弾み車)で自立する二輪車も米スタートアップなどにより開発されている。

いずれの技術も実用化や普及には至っていない。ただ、ホンダの幹部は「デバイス自体だけでなく、開発過程で得たノウハウはすでに採り入れている」と明かす。

倒れないバイクができれば、潜在需要の掘り起こしはもちろん「平均気温が10度以下の地域では売れない」という常識が覆る可能性もある。四輪車のような自動運転技術との組み合わせも将来は視野に入るだろう。実際、ホンダの「ライディングアシスト」搭載車は、人の後をついていく機能がある。各社は「夢の技術」の実用化に向けて着々と前進している。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞12月3日掲載