会員向けクルマ
biz

INFORMATIONクルマの情報館

自動車産業インフォメーション

2022年11月18日

SIP自動運転ワークショップ開催 社会実装見据え具体的方向性探る

約8年間にわたって内閣府を中心に産官学で取り組んできた戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「自動運転開発」が今年度で終了する。その集大成となるワークショップがこのほど、京都で3日間にわたって開かれた。高度自動運転に必要なデータ連携の方向性などについて、各国の有識者たちが議論を交わした。

SIPは、各社が開発を進める自動運転技術において、非競争領域での協調を目的として立ち上がった。企業間だけではなく、産官学の枠組みを超えた所で連携を深め、個社の優位性やコア技術を阻害しない領域での協力を念頭に置く。

2014年から始まった第1期では、主に自動運転に必要な協調領域の技術面に重きを置いて取り組んだ。SIP自動運転サービス実装推進ワーキンググループ(WG)主査の大口敬氏(東京大学教授)は、「議論を重ねるうちに、法律上の扱いや保険のデザインなど、社会の中で自動運転車を走らせることを前提とした現実的な方向性が見えてきた」という。この成果を踏まえ、第2期ではデータ連携や通信技術の方向性など、社会実装を具体的に見据えたテーマのもと、取り組みを進めてきた。

10月11~13日に開かれたワークショップでも、このテーマに沿った成果が多く発表された。昨年終了したフォルクスワーゲングループ(VW)が主導する欧州でのプロジェクト「L3パイロット」では、13の自動車メーカーが走行実証に参加。そこで得たデータをウェブサイトからダウンロードできるよう共有化し、商業目的での利用も認めたという。

従来であれば個社ごとの競争領域にあたるが、VWのアリア・エトマッドプロジェクトマネージャーは、「1社で収集できるデータには限りがある。データを共有することで(収集の)時間と手間を削減できる」と目的を話す。

SIP自動運転担当プログラムディレクターの葛巻清吾氏(トヨタ自動車フェロー)も、「確かにローデータ(生データ)自体は競争領域だが、例えばカメラやGPSから得たデータを地図の更新に使うなど、より多くの情報が必要なところは協調領域となる」とし、データのフォーマットやルール作りで国際協調が必要だと説く。葛巻氏は、SIPを通じてその認識をグローバルで共有できたのも成果だとした。

データだけでなく、規格の共通化も重要になる。中でも高度自動運転の実現に必須となるコネクテッド領域の国際標準化は急務だ。SIPのシステム実用化WGなどが策定した40年を指標としたロードマップでは、協調型自動運転における25のユースケースを例示した。

そのうち、高速道路での合流など、頻繁にデータのやり取りが必要なケースでは、現行の周波数では容量が足りず、要件を満たせない例も見つかった。

日本では760㍋㌹帯の周波数を利用しているが、欧米では5・9㌐㌹帯をITS(高速道路交通システム)の専用周波数に設定している。同WG副主査の岩下洋平氏(マツダ上席研究員)は「大容量通信ができるよう、日本も海外での導入事例を参考に議論を進めるべき」と話す。

また、岩下氏は、40年に市場の3割が協調型自動運転車に切り替わると想定した場合、「30年までに新たな通信技術を導入する必要がある」とし、早急にセキュリティーやプロトコル(手順)の決定を進めるべきとも訴える。SIPではすでに5・9㌐㌹帯の導入を見据えた議論を開始しており、「海外と協調できるところは国際標準化していく」(岩下氏)考えだ。

レベル4以上の高度自動運転車の普及には、社会全体の受容性の醸成も必要になる。米AAA交通安全財団のデビッド・ヤン事務局長は「レベル4以上の高度自動運転車より、レベル2、3の車両の方が信頼している人が多い」という調査結果を公表した。

運転の主導を機械が握ることに抵抗感を持つ人は依然として多い現状だという。また、オランダの自動運転技術などを管轄する省庁でシニアアドバイザーを務めるリノ・ブラウアー氏は「高度自動運転においても、人間が車が適切に行動しているかを監視するべき」だとし、レベル4以上の普及の土台を作るには〝人間の目〟が引き続き必要だと説いた。

一方で高度自動運転車が普及した際に自動車市場にプラスの効果が生まれるとの発表もあった。ドイツのアーヘン工科大学で都市交通などを研究するトバイアス・クナイホフ氏は「移動するのにかかるコストが減れば、レベル4以上のパーソナルカーが増える可能性もある」と分析する。

一般的には自動運転車やロボットタクシーなどが普及すれば、1台の車両を複数人で利用するケースが増え、保有車両は減少するとの見方が強い。しかし同氏は、利便性が高まる分「公共交通機関より魅力的になり、個人所有の増加につながる」という。

また、同志社大学の三好博昭教授は、自動運転車を購入する理由として「車両の価格が半額になるよりも、社会的便益が上がることを望む人が多い」との研究結果を公表した。交通事故の減少や過疎地の移動手段の確保など、交通弱者の負担を減らすことに価値を感じる人が多いのだという。

来年度から始まるSIP第3期では、「スマートモビリティプラットフォームの構築」を開発課題として取り組む。自動運転には引き続き取り組むものの、ドローンなども含めたモビリティ全体のデータの利活用について議論する考えだ。

カテゴリー 会議・審議会・委員会
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞11月12日掲載