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2022年9月08日

商船三井 海上輸送でEVシフト見据え、自動車専用船に防火対策

新車や中古車の海上輸送を手掛ける商船三井は、電気自動車(EV)シフトを見据えた自動車専用船の防火対策に乗り出している。消火しにくい駆動用電池の異常を早期検知できる温度センサーを船内に導入したほか、積載するEVの電池残量を減らすなど燃えにくい体制の構築に取り組む。

大量の車両を輸送できる自動車専用船がひとたび事故を起こせば、顧客に納める車が届かず流通市場に支障を来す。特に足元では新車供給の不足もあり、より大きな混乱を招く恐れもある。牛奥博俊専務執行役員は「無事に消費者に車を届ける」とし、安全な車両輸送の実現に取り組む方針だ。

同社は日本からの新車や中古車の輸出だけでなく、外国メーカーが日本に出荷する輸入車の海上輸送も引き受けている。国内市場では輸入車勢のEVラインアップが拡大しており人気が高まっている一方、半導体不足などにより、世界のどのメーカーでも電動車の供給量が限られている。こうした貴重なEVを適切に仕向地に届けていくことで、日本をはじめとする世界各国の自動車市場の安定に貢献していく狙いだ。

同社では電動車の火災の原因となりやすいリチウムイオン電池の防火対策を強化している。船内に火災探知機を増設した上で、温度センサーを導入。さらに、船員にはサーモグラフィーを携帯させ、輸送中のEVの見回りの頻度を増やすことで、異常をいち早く検知し、初期消火を行いやすくした。ガソリン車とEVの保管区画を別々にするなどし、万が一の発火時にも延焼を食い止める体制もとる。

また、電池残量が多いほど、発火の危険性が高まる。世界各国をつなぐ自動車専用船は、到着まで約1カ月かかる航路も少なくなく、長時間リスクにさらされる。しかし、電池残量をゼロにすると、車両の積み込みや積み下ろしで自走できずに手間がかかる。

このため、商船三井では輸送中の自然放電も考慮し、電池残量を50%にして輸送するようにした。ただ、「EVは新しい輸送商品でもあり、(海上輸送の)国際的な基準はない」(牛奥専務執行役員)のが実情。同社では今後、メーカー各社と連携しながら、リスクの抑制と輸送の効率向上を両立できる水準を検討していく考えだ。

同社がこうした取り組みを加速させる背景には、自動車専用船の事故を減らしたい思いがある。同社は2月、ドイツから米国に向かった船が大西洋上で火災を起こし沈没。約4千台もの車両が海に沈んだ。原因は不明だが、電池が何らかの形でかかわった可能性も否定できない。

ただ、間違いないのは車両が届かなかったことで、メーカーだけでなく、ディーラーをはじめとする流通事業者、そしてユーザーにも不利益が広がった。同社ではこうした事態を避ける決意だ。

今後、日本メーカーが海外に出荷するEVは増える見通しで、日本に向かう輸入EVも拡大するのは間違いない。将来的に中古EVの輸出も増加していくとみられる。同社ではEVの海外とのやり取りが増える時代を先取りして対策を打つことで、メーカーや輸出事業者などからの信頼を引き上げ、新たな自動車の輸送需要を取り込んでいきたい考えだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞9月1日掲載