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2022年9月08日

ロードサービス業界で進む電動車対応 EV普及で新たな技術習得必須に

ロードサービスで電動車対応が課題になっている。電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)は国産車、輸入車ともにラインアップが増え販売が伸びてきたが、車種ごとに救援手順が異なるため、現場で作業に手間取るケースがみられる。ロードサービスを手掛ける事業者や団体は、EVに特化した勉強会を開くなど救援ノウハウの習得支援に力を入れて、電動車の普及拡大に備えている。

2010年に国内でEVが市場投入されてから12年が経過し、現在ではPHV、燃料電池車(FCV)と、販売車種が増えている。

電動車のロードサービスの領域では、EVの発売当初は、駆動用バッテリーの容量がなくなる、いわゆる〝電欠〟の救援要請が多かったが、航続距離が伸びたことで、現在は少なくなったという。

全国のレッカー事業者で組織する全日本高速道路レッカー事業協同組合(JHR、亀山善之理事長)の加藤紀明副理事長は「EVやPHVは車両重量が重いので、タイヤ関連のトラブルが多い」と指摘する。また、米テスラ認定ボディーショップのセンチュリーオート(千葉県松戸市)レッカー部の久武英二チーフは「駆動用ではなく補機バッテリー上がりの救援要請もある」という。

電動車を含めて多くの車種で標準装備される電動パーキングブレーキ(EPB)は、車両に電気が送られないとEPBの作動状態を解除できず、タイヤがロックされたままとなる。そのため、今回取材した関係者は「タイヤやシフトのロック解除の対応が大変」と口をそろえる。救援依頼の連絡が入ると「電気が通るかどうかを最初に確認する」(JHRの加藤副理事長)という。

新たに登場するEVやPHV、FCVが増える中、課題となるのが新型車の技術情報の習得だ。整備事業者で組織するBSサミット事業協同組合(磯部君男理事長)のロードサービス委員会の森松和博委員長は「組合員間で電動車の技術情報を供給している」と語る。

センチュリーオートはBSサミットの組合員で、テスラを自ら社用車や代車として所有する。センチュリーオート管理本部の山中勝義マネージャーは「テスラの技術研修の情報も横展開している」と、最新の情報提供で作業品質を高めているという。

また、JHRは「自動車救援士の資格認定試験のテキストは、これまでのハイブリッド車(HV)中心の内容から、EVのカリキュラムを取り入れた」(加藤副理事長)として、対応力強化に結び付ける。

電動車には、さまざまな便利な機能が搭載されているが、ロードサービスの面で見ると「スマートフォン(スマホ)が車の電子キー代わりに使える機能がある。ロードサービスで車を預かる際に、仮にドライバーがスマホしか持っていない時の対応が課題」(JHR教育部会の可児英樹部会長)と指摘する。電動車のスマート化も、ロードサービスの立場では、作業工数が増える要因となってしまっている。

新興EVメーカーの商用EVに国内の物流関係者の関心が高まり、すでに数千台規模での導入を発表した企業もある。こうした商用EVもロードサービスの対象となるが、レスキュー時の取り扱いなどのサービス情報をどこまで提供できるのかも課題となる。

こうした中、日本自動車車体補修協会(JARWA、吉野一代表理事)は、商用EVを手がけるHWエレクトロ(簫偉城社長、東京都江東区)を正会員に迎え入れた。JARWAは、ロードサービス事業者などで組織する自動車利用者保護機構(AUP、山下健樹代表理事)と連携し、HWエレクトロの商用EVの技術情報を集約し、AUPがロードサービスに対応する。

デリバリー用途で使用される商用EVは不特定多数のドライバーが使用するケースがあり、ロードサービスの頻度も高いことが推測され、ロードサービス対応を目的とした連携に関心が集まりそうだ。

電動車のロードサービスには、高電圧部位の取り扱いなど注意点が多く、作業者は「低圧電気取扱業務特別教育」を受講して、技術力を身に付けている。しかし、電気工事などの内容も含まれており、ロードサービスとは関係のない知識も学ぶ必要があった。

電動車の技術情報の習得の効率化を目的に、厚生労働省は19年に「電気自動車等の整備業務に必要な特別教育のあり方に関する検討会」を開催。低圧電気取扱業務特別教育の内容から、EVなどの整備業務の内容を独立させて、新たに「電気自動車等の整備業務に係る特別教育」の講習へと内容を改めた。これにより、EVなどに特化した内容となり、ロードサービス担当者が受講しやすい環境が整ったことになる。

今後も、新型車の導入が予定されており、多様な車種の円滑なロードサービスの実現には、車両側の救援に関する標準規格づくりが必要だろう。関係者間の協力体制をより強くすることも、ユーザーの不安解消に貢献するだろう。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞9月5日掲載