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2022年9月06日

日本自動車工業会 学生向け情報発信強化、将来担う若手人材の確保を

日本自動車工業会(自工会、豊田章男会長)は、学生の自動車産業に対する関心を高める活動に力を入れている。経営層が大学で授業を行う「大学キャンパス出張授業」や中高生向けの「ドライブ・フォー・ザ・フューチャー」に加え、昨年も新たなオンラインイベントも開始。会員各社が協力して学生向けの情報発信に取り組んでいる。

この背景には自動車業界を志望する若者の母数を確保しなければ、自動車産業の変革期を乗り越えられない危機感がある。採用活動で協調路線を加速することで、まずは自動車に興味を持つ若者を一人でも増やしていきたい考えだ。

総務省の国勢調査によると、生産年齢人口(15~64歳)は1995年の8730万人をピークに減少に転じ、2015年には8千万人を下回った。さらに20年には約7500万人に減っており、どの業界でも人手不足に悩まされる一因になっている。

こうした状況の中でも自動車産業は、さらに多くの人材の確保に迫られている。世界的な環境志向の高まりから、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)への対応は待ったなしだ。自動運転やコネクテッドをはじめ、車のデジタル化でもメーカー間の開発競争は激化している。ユーザーニーズも電動車に急速なシフトをみせる。これらに対応していくため、特に電気系やIT系の人材の引き合いが強まっている。

しかし、デジタルトランスフォーメーション(DX)は自動車産業だけの問題ではないため、IT系の人材は他業種を含めた取り合いになっている。学生の中には自動車メーカーがソフトウエア開発を外部委託しているイメージが根強く、そもそも自動車業界を就職先の選択肢に入れていないケースも多いという。このため、メーカー各社は開発の効率化や職場環境の改善、中途採用の強化などで急場をしのいでいる状況が続いている。

こうした環境を抜本的に改善するため、自工会は自動車業界を学生に、就職先として選んでもらうための活動の幅を広げている。昨年から開始した就職活動前の大学生を対象に自動車産業全体の動向をオンラインで紹介する「次世代モビリティキャンパス」もその一環だ。

自工会の大学生向けのイベントでは13年から大学キャンパス出張授業を実施しているが、参加できる学生が実施校の生徒に限定されるほか、講師が所属する個社の話題が中心となるため、業界全体の状況を伝えにくかった。

次世代モビリティキャンパスは、こうした課題の解決を目指す。オンライン開催とすることで、学校の垣根を越えて全国の学生を集めやすくなった。また、自工会加盟の全14社の社員がテーマごとに横並びで登壇することで、業界全般の動向を発信できる。

今年7月に開催した第2回では、ソフトウエアに加え、モビリティサービスや生産技術といったテーマでパネルディスカッションを実施し、前回の4割増となる2400人が参加した(事前登録者ベース)。

一方、特に不足している理系の人材を増やすために、中高生向けの取り組みも強化している。文理選択前の中高生を対象にしたドライブ・フォー・ザ・フューチャーで、中高生にも関心度が高いSDGsなどを題材に自動車メーカーの取り組みを紹介し、自動車産業に対する関心の醸成につなげている。

従来は女性のみを対象にしていたが、今年7月の開催では女性以外にも対象を拡大し、自動車業界で求められる多様な人材の確保にも弾みをつけていく考え。大手予備校と連携してイベントの告知も強化した結果、参加人数は前回の80人から230人に拡大するなど一定の成果が出ている。

ソフトウエアの技術者だけでなく、自動車業界を支える整備士やトラック運転手の人材不足も慢性化しつつある。カーボンニュートラルなどの社会課題の解決に向け、550万人の自動車産業全体での取り組みが求められる中、人材確保の観点でもさらに業界全体で連携していくことが求められそうだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 中高生,大学・専門学校,自動車業界

日刊自動車新聞9月3日掲載