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2022年7月12日

健全な中古車小売り市場へ一歩 自動車公取協、総額表示義務化

中古車価格の表示ルールが見直される。自動車公正取引協議会(自動車公取協、倉石誠司会長)は、中古車価格の支払総額表示を販売店に義務付ける自動車公正取引規約・規則改正案を正式に決めた。

今後、公正取引委員会や消費者庁の認定、承認を経て、2023年10月の施行を目指す。改正案では、販売する中古車の価格を車両と広告に表示する場合には、消費税のほか、自賠責保険料や登録料などの諸費用も車両価格に含めた「支払総額」の表示を義務付ける。

表示価格で実際に購入できない場合「不当表示」として違反事業者に対して「厳重警告」し、悪質なものは最高500万円の「違約金」を課す。おとり広告の一掃で、中古車小売り市場を健全化する切り札となるか。

中古車価格の支払総額の表示を販売店に義務付ける自動車公正競争規約・規則改正案は、6月8日に行われた自動車公取協の22年度定時総会で承認された。改正案が施行されれば、車両価格に諸費用を加えた総額で表示し、車両価格と諸費用の内訳も示さなければならない。

具体的には、これまで請求されていた「納車点検費用」「納車準備費用」「納車整備費用」などの諸費用について、「車両価格に含まれるべき中古車の商品化のための費用」として定めた。このほか、「登録代行手数料」などを、合理的な額にするよう求める。

改正案では、「定期点検整備実施」と「保証」の表示のあり方にも言及。両項目は、価格と品質に重要な影響を及ぼすことから、支払総額の近くに表示するよう明記する。また、「整備付き」の場合は車両価格に含めて表示するほか、「整備なし」では、整備が必要な部分を明示することも求める。

併せて、不当表示の規定も見直す。表示価格で購入できない場合や、「車両価格」に含まれるべき「納車準備費用」などの諸費用を別途請求した場合は、「不当表示」とする。罰則も厳罰化する。表示価格で実際に購入できない場合は、「走行距離」や「修復歴」の不当表示と同じく、自動車競争規約の中で最も重い処分を課す。

違反した事業者には、社名公表も可能な「厳重警告」を初回から出せるようにする。悪質なケースは、初回で最高100万円、2回目以降で最高500万円の違約金も課すよう厳罰化する。

支払総額の表示を義務付ける背景には、プライスボードやインターネットに掲載する車両価格に多額の諸経費を上乗せし、表示価格では購入できない「みせかけの価格」を広告に表示する販売店などの問題行為を無くすためだ。

自動車公取協に寄せられる消費者相談のうち、付帯費用に関する相談で「無償保証を付けるためには、別途有償の定期点検整備をしないといけないと言われた」「不必要な諸費用を請求された」など、販売対応に問題が見られる相談が目立つという。

こうした不適切な行為について自動車公取協では、昨年8月に公表した中古車の広告と店頭における価格表示と販売の実態に関する覆面調査の結果を基に、不当表示を行っていた11社に改善を求めるなどの措置を行っていた。

このような状況を踏まえ、日本中古自動車販売協会連合会(JU中販連、海津博会長)は、支払総額表示に対する問題意識を強めている。海津会長は、支払総額表示について「JU中販連としても重点的な事業として是正を促していく」と語り、中古車小売り市場の透明化に向けて注力していく考えを示している。

販売現場も総額表示については賛同の声が多い。埼玉県内の中古車専業店の幹部は、「当社はこれまでも総額表示でやってきた。価格の透明性を図る上でも、業界がこうした流れをつくることは非常に重要だ」と語る。

オートバックスセブンが運営する中古車販売買取事業のオートバックスカーズは、「自動車公取協の決定事項に準じた取り組みを推進していく」としている。さらに同社のフランチャイズ本部が、総額表示について加盟店への周知などの対応を検討している。

自動車公取協では、改正案を取りまとめるにあたり、会員を対象に「総額表示」に関するアンケート調査を実施した。回答した会員のうち、販売価格を支払総額で表示している割合は約8割を占めた。その一方で、支払総額を表示していない約2割は、「手間がかかる」「価格が高く見えてしまう」などの理由を挙げた。調査は20年11月~21年1月に実施し、1423人が回答した。

調査では、「現在、販売価格の表示は支払総額としているか」の問いに対して、全体で75・4%が「はい」と答えた。内訳は「店頭、広告で表示」が32・2%、「広告のみで表示」が32・1%、「店頭のみで表示」が11・1%となった。支払総額で表示する理由として最多だったのが、「購入時の必要金額が分りやすい(消費者が求めているものだから)」が約8割を占めた。

その一方で、総額表示をしていないのは24・6%だった。その理由として、プライスボードなど毎月変更する必要があるなど「手間がかかる」との回答が38・1%と最も多かった。

調査結果では、会員の約2割が支払総額表示を行っておらず、業界でも完全に浸透している状況にはない。このような状況を解消するため、自動車公取協は7月から自動車関係団体に対して説明会を全国で実施している。

対象は、JU中販連をはじめ、日本自動車販売協会連合会(自販連、金子直幹会長)、日本自動車整備振興会連合会(日整連、竹林武一会長)の3団体。

北海道から九州までの各ブロックの事務局に対して説明会を開き、各団体の会員に総額表示の具体的な内容や施行時期などの理解を広めていく。さらに、施行前に余裕をもって車両のプライスボードや広告の価格表示の変更ができるよう、対応を求める。

ディーラーや地場の中古車専業者など、多くの中古車関連事業者は地域に根差した販売活動で、信頼を得ている。一方、一部の中古車販売店による不当表示や不適切な販売行為は、業界全体の信頼を損なう要因となっている。自動車公取協は「総額表示は大きな規約改正なので、しっかり業界内と消費者に浸透させていきたい」と意気込む。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞7月4日掲載