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2022年3月31日

カーナビ各社 自動車変革見据えた製品開発、市販品の魅力に磨き

市販カーナビゲーション(カーナビ)メーカーが、コネクテッドや自動運転をはじめとした自動車の変革を見据えて製品開発を活発化している。車載機器の老舗パイオニアは、独自の人工知能(AI)技術によって画面を使わず音声だけの道案内、操作、情報検索を可能にした「声で運転を新しくする商品」(矢原史朗社長執行役員)を投入した。

その一方で、複雑になった機能をシンプルな経路案内に絞った製品を20年ぶりに投入する企業もある。市販カーナビには、ナビゲーション機能のあるスマートフォン(スマホ)の普及やスマホと連携可能なディスプレーオーディオ(DA)の搭載拡大などで将来を危ぶむ声がある。しかし、各社は市販カーナビ独自の先進性や汎用性を今一度追求し、さらなる成長を目指している。

明確な特徴づくり

経路案内の技術的な熟成が進み「2DIN」サイズの商品が中心となった2000年代半ば以降、市販カーナビでは大画面化や、スマホのような操作性の実現など、新たなアイデアの模索が始まった。ただ、特に上級タイプでは、コネクテッドをはじめとした技術を取り込むスピードを速めた自動車メーカーの純正品に対する〝新しさ〟をどのように打ち出すべきか、方向性が見えにくくなってきた。

こうした中、1990年に市販業界初のカーナビゲーションを製品化したパイオニアが、満を持して投入した新製品が「NP1」だ。「会話するドライビングパートナー」をテーマに、あたかも道案内の上手な人が助手席にいるかのようなナビゲーションにこだわった。ドライブレコーダー機能も備える。

音声による経路案内はこれまでもカーナビで利用されてきたが、画面での案内の補完にとどまりがちだった。新製品はドライバーが画面を気にする必要がなくなるほど高レベルな音声案内に挑み、純正品を含む他製品とは一線を画す明確な特徴を打ち出した。

同社がクルマの情報化時代をにらみ、ドライバーが簡単に豊富な情報を操るためのツールとして開発してきたモビリティ用のAIプラットフォーム「パイオマティクス」を初めて市販商品で形にした。画面なしでの操作、経路案内によってその実力の一端を示した。NP1では、地図や観光案内などの情報をクラウドから得るため、サブスクリプションの通信プランを用意して利用料の負担感を抑えることにした。

「パイオマティクスはオープンエコシステムを前提に開発した」(矢原社長執行役員)ため、パートナー企業と連携してどんどん機能を進化できるという。新しいAIプラットフォームを海外や二輪車向け製品にも展開して「再上場を狙う」(同)と述べ、この技術に懸ける意気込みを隠さない。

原点回帰で需要吸収

JVCケンウッドは、多機能化に伴って操作が複雑になりがちなカーナビの「使いこなしが面倒」というユーザーの増加をにらみ、道案内を重視した製品の再投入に踏み切った。新製品「ココデス」は後付けが簡単なPND(ポータブルナビゲーションデバイス)。同社のPND発売は約20年ぶり。ラストワンマイルを担う運送事業者や輸入車、旧車などのニーズ吸収を狙う。

PND市場では、三洋電機が1990年代半ばに発売し、現在はパナソニック・ブランドが受け継いだ「ゴリラ」が定番商品となっている。その牙城に挑む。

JVCケンウッド国内営業部営業企画グループの南拓司グループ長は「マーケット全体で見た場合、市場は小さいものの需要は底堅い。PNDを求めるユーザーの新しい選択肢として役立ちたい」と、定番商品に並ぶ商品に育てていきたいという。

これに対しパナソニックオートモーティブ社インフォテインメントシステムズ事業部市販・用品ビジネスユニットの荻島亮一ビジネスユニット長は「スマホアプリとの戦いがあるものの、ナビ専用機としての価値を評価していただき、リピーターも多い」と、根強い固定客に支えられる強みを生かしてさらなる需要開拓を目指す。

市販VS純正

自動車メーカーでは、コネクテッド機能を装備する車種専用カーナビでユーザー獲得を図る動きが本格化した。トヨタ自動車は新型「ノア」「ヴォクシー」に決済アプリ「トヨタウォレット」対応の通信型カーナビを設定。純正カーナビならではのメリットを高める施策に余念がない。

これに対し、市販カーナビはさまざまなアイデア、工夫を凝らし純正品にはない魅力づくりを進めている。

市販ナビのトレンドの一つは大画面化。センターコンソールなどに画面を浮かせるように取り付けるフローティング構造の開発で10、11㌅の大型ディスプレー装着を可能にした。また、市販車載機器の愛好家は同一ブランドの製品でそろえる傾向が強いため、自社製品間の連携を広げて顧客囲い込みを狙う動きもある。

DAとの戦い

市販カーナビ各社が最大の〝脅威〟とするのは、自動車メーカーのディスプレーオーディオ(DA)搭載拡大という点で一致している。電子情報技術産業協会(JEITA、綱川智会長)が公表する民生用電子機器国内出荷統計を見ると、カーナビゲーションシステムの出荷推移は2018年の614万4千台をピークに減少。21年には半導体不足による生産減少の影響もあり500万台弱に落ち込んだ。出荷減は輸入車でDAの新車装着が進んだことが大きいとの見方が根強い。

DAは、スマホアプリをクルマの画面で共有できることが最大のメリット。DAにつなげばネット地図の経路案内や、動画視聴アプリなどスマホで親しんだアプリを使って、車内でコンテンツを楽しめる。DAはナビ機能を省きコストを下げられるため、国産車でも新車採用が進んでいる。DAの先には、自動運転や統合コクピットなど市販品装着の余地をなくしかねない新技術が控えている。

しかし、市販カーナビはいまだに年間500万台近くの市場規模を保ち、カー用品店でも販売の主力となっている製品だ。コンサバティブな技術進化を基に商品開発を進める純正品に対し、先進技術の迅速な導入や「かっこいい」「おもしろい」などのアイデアを具体化することが市販品に求められることは今も昔も変わりない。そのニーズに応えるものづくりの心意気こそが、カーナビ各社の持続的な成長の糧になる。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞3月28日掲載