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2022年3月15日

損保各社 「技術アジャスター」採用、人材不足や高齢化が課題に

損害保険各社で自動車事故の損害額や原因調査などを行う「技術アジャスター」の人材不足が課題になり始めた。損保各社では「将来的に希望の人数を採用するのが難しくなる」(あいおいニッセイ同和損害調査)との危機感があり、新卒採用の間口を主力の専門学校から大学にも広げる動きが目立っている。

交通事故は減少傾向にあるものの、詳細な検証が必要な死亡事故は横ばい状態が続く。車両の高度化で、今後、技術解析がさらに難しくなる可能性もある。アジャスターが不足すれば、保険金支払いの遅延を招く恐れもあり、各社は優秀な人材の安定確保に知恵を絞っている。

アジャスターは、相手と責任割合を交渉するなど事故解決にとって欠かせない人材だ。自動車の構造や技術に対して高い知見が求められるため、損保各社はこれまで、自動車整備士を養成する専門学校や自動車大学校で専門教育を受けた学生を採用するケースが多かった。しかし、最近では少子化や若者のクルマ離れなどが影響し、整備学校への入学者は減少が続く。このため、整備工場などとの間で、採用競争が厳しさを増している。

こうした状況を受け、損保各社が期待を寄せているのは大学で工学系を専攻した学生だ。自動車専門卒に比べ、入社時点で自動車に特化した知識は乏しいものの、「工学系の分野を学んだ人は物理工学への理解が深く、強みになる」(損害保険ジャパン損害調査グループの簑輪貴博技術課長)と指摘する。

「交通事故は物理現象で起こる」(同)ため、物理などの高等教育を受けた人材は極めて有用なためだ。すでに損保ジャパン、三井住友海上火災保険、東京海上日動調査サービスは新卒採用で工学系分野を学んだ大学生を採用した実績があり、今後も増えていきそうだ。

アジャスターとして採用する大卒者を対象にした教育も充実させている。損保ジャパンは入社後、約半年間の比較的長期に渡って集中的な研修を実施し、車両の構造などを詳しく学べる場を設けている。三井住友海上はアジャスターの大量採用を行わず、毎年最大2人を基本とした少数精鋭の体制で必要な知識を効率的に身に付けられるようにしている。

アジャスターを巡っては平均年齢が上昇している問題も出ている。ある損保会社によると「40~50代が多くなっている」としており、「地方では特にその傾向が強い」という。採用活動の強化により、アジャスター全体を若返らせ、安定した保険業務の実現につなげていく狙いもある。

また、アジャスターの認知度不足が目指す学生を減らしている可能性を指摘する声もある。「技術アジャスターの仕事がどのように社会に貢献しているかを丁寧に説明する」(損保ジャパンの簑輪技術課長)ことで、採用拡大に弾みをつける考えだ。

カテゴリー 交通安全
対象者 大学・専門学校,自動車業界

日刊自動車新聞3月8日掲載