会員向けクルマ
biz

INFORMATIONクルマの情報館

自動車産業インフォメーション

2022年3月10日

自動車業界で広がる「イクボス」宣言 多様性ある職場環境を構築

自動車業界で上司が部下のワークライフバランス向上を支援する取り組み「イクボス」を推進する動きが広がっている。イクボスの宣言企業は今、自動車メーカーや部品メーカー、ディーラーなど業態を問わず広がってきた。経営トップが率先して行動する企業も出ている。

自動車業界は自動運転や電動化の進展により、従来以上に優秀な人材の獲得競争が激しくなっている。こうした人材を確保する上でも職場環境の向上は不可欠だ。多様化する社員の働き方に対応するため、上司や社員が一緒になって働きやすい職場環境の構築を目指している。

イクボスは育児と上司(ボス)を掛け合わせた造語で厚生労働省が提唱している。上司が部下の子育てや介護などに配慮することで、仕事と家庭生活を両立しやすい環境を整えていく。厚労省ではイクボスの取り組みを通じて、男性の育児参加の拡大や、家庭環境の変化が離職につながりやすい女性の就業継続を実現していく方針だ。

自動車メーカーでは日産自動車が2月、内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)とアシュワニ・グプタ最高執行責任者(COO)がともにイクボス宣言を表明した。内田社長兼CEOは「従業員が力を発揮できる環境を提供することは経営層の最大の責務」とし、働きやすい職場環境の実現に向けて積極的に取り組んでいく姿勢を示す。グプタCOOも多様性を受け入れることの重要性を社内外に訴える。

同社は人材の多様性を認める「ダイバーシティー&インクルージョン」を重要な経営戦略の一つに掲げている。仏ルノーとの長年の連携もあり、日産には多様なバックグラウンドや異なる価値観を持った社員が数多く働いている。経営幹部が今回、イクボス宣言を行ったことで、さらに同社の多様化に向けた取り組みの輪が広がりそうだ。

サプライヤーでもイクボスを宣言する企業が出ている。NTNは昨秋、管理職向けに「イクボスハンドブック―部下の仕事と生活の両立のためのサポートブック」を発行した。このハンドブックでは同社の従業員が育児や介護など、働き方にも影響があるような転機が訪れた場合に、育児・介護休暇制度や時短勤務制度など利用可能な同社の制度を紹介している。

また、多様な人材が働く職場において、適切なマネジメント方法なども具体的な事例などを掲載して分かりやすく紹介している。同社では一般職だけでなく、管理職にも時短勤務などを導入するなどワークライフバランスの両立に積極的に取り組んできた。今回のイクボス宣言を通じて、こうした取り組みをさらに深化させていく考えだ。

ディーラーでは青森ダイハツモータース(高橋勉社長、青森市)が宣言企業の1社だ。同社では2018年5月、青森県が主導する「あおもりイクボス宣言企業」に登録された。同社はこのほか、子育てサポートを推進する企業を厚労相が認める「くるみん認定」も取得済み。こうした取り組みを通じて、従業員の働き方改革などを推進している。

青森ダイハツではさらに前を向いて行動している。くるみん認定は18年に獲得したが、その直後からより高い達成基準が求められる「プラチナ認定」を目指して行動計画を立てた。「月5回のノー残業デーの実施」や「育児目的休暇の導入」などに取り組んできた努力が実を結び、東北地区のディーラーでは2社目となるプラチナくるみん認定を21年に取得した。

この活動期間中の育児休暇の取得率は男性で85%、女性が92%まで上昇するなど成果は数値にも表れた。これが男女問わず積極的に育児に参加してもらう企業風土の醸成につながり、社内には子育て世代を応援する雰囲気が根付いているという。社風が変化したことにより、従業員の定着率の向上や採用活動でも競合他社との優位性が高まるなどの副次効果も出ている。

今後もさまざまな企業や経営者が、イクボスを宣言するケースが増えると見込まれる。しかし、ワークライフバランスの改善や働き方改革は従業員の意識改革が必要で、一朝一夕でできるものではない。一過性の取り組みで終われば意味がなく、腰を据えて継続できるかが問われそうだ。

カテゴリー 社会貢献
対象者 キッズ・小学生,一般,自動車業界

日刊自動車新聞3月5日掲載