会員向けクルマ
biz

INFORMATIONクルマの情報館

自動車産業インフォメーション

2022年2月15日

自動車流通・アフター業界 脱炭素へ横断的対応、大手の取り組みで中小を支援

世界的に脱炭素化の流れが加速する中、自動車の流通・アフター業界でも具体的な取り組みに着手する動きが目立ち始めた。整備や中古車、補修部品、損害保険などの大手事業者や関連団体が、電気自動車(EV)の導入事例の成果共有や二酸化炭素(CO2)排出量を可視化するシステムの提供などに着手。さらに、経営体力に限りがある取引先や会員事業者向けにこうした取り組みを導入支援する輪も広がりつつある。

政府が2050年に温室効果ガスを実質ゼロ化するカーボンニュートラル(炭素中立)を目指す中、業界横断的な対応による生き残りへの模索が加速しそうだ。

すそ野の広い流通・アフター業界は事業内容や企業規模がさまざまで、脱炭素化に向けた対応もばらつきが出ている。

社用車をEVなど次世代エコカーに置き換えたり、事業所自体を再生可能エネルギーの利用に切り替えたりする企業がある一方、余力が乏しい中小・小規模事業者などでは、短期的な収益拡大につながりにくい環境投資に、二の足を踏んでいるのが実情だ。このため、各領域の大手事業者などが情報やノウハウを提供することで、業界全体の底上げを目指している。

部品商社のSPKは21年11月、近畿営業所の移転新設を機に太陽光発電システムを導入し、EVや充電設備も配備した。沖恭一郎社長は「自社の脱炭素化を進めつつ、地域部品商などの取引先が脱炭素対応への投資を考える際の実例としたい」と狙いを明かす。環境面でのメリットやデメリット、技術情報などを企業の垣根を越えて共有することで、中小事業者の多い部用品の流通業界での脱炭素対応に一石を投じたい考えだ。

三井住友海上火災保険も25年までに社有車約4千台をEVまたはプラグインハイブリッド車とする方針を掲げる。今年1月からは保険代理店組織のアドバンスクラブに加盟する整備事業者を対象に、CO2排出量を算出し可視化するサービスの無償提供も開始した。

同社は「SDGs(持続可能な開発目標)への関心が高まりつつある半面、何から着手するべきか分からないと話す事業者も少なくない」とした上で、サービス導入により「一緒に脱炭素の課題を解決する」と道筋を示す。

中古車業界でもインターネットによる中古車オークション(AA)を手掛けるオークネットが、同様のシステムを自社プラットフォームに実装して会員事業者に提供する計画。この中で、将来的に各事業者の脱炭素対応を評価して「お墨付き」となる証明書を発行し、消費者への訴求ツールとして活用してもらうなど、より踏み込んだサービスに発展させたい考えだ。

大規模な設備投資を伴うことなく導入できるCO2排出量可視化システムには、業界団体からの注目も集まっている。日本自動車整備振興会連合会(日整連、竹林武一会長)は22年度の活動方針に、整備事業者による可視化システムの利用促進を盛り込んだ。

日本自動車販売協会連合会(自販連、加藤和夫会長)も、会員ディーラーへの展開を目指して東京海上日動火災保険と協業してシステムを開発する。まずは一部ディーラーで実験的に導入し、将来的に全国のディーラーが自由に使える仕組みとする計画だ。

全国ネットワークを構築する流通・アフター関連企業や業界団体が懸念するのは、脱炭素対応に出遅れ、競争力を失うビジネスパートナーが出現することだ。完成車メーカーやサプライヤーなどの製造業では、ライフサイクルアセスメント(LCA)での脱炭素化対応が求められ始めている。すでに、取引先選定の条件に脱炭素対応を盛り込むと表明する企業も現れ始めた。

こうした動きが本格化すれば流通領域にも波及するのは間違いない。流通業界の中小事業者が倒れていけば、市場規模が小さくなり、取引関係のある大手企業なども他人事ではいられなくなる。業界全体で生き残りを図るためにも、事業規模に富む企業・団体が中小事業者を支援して将来に備える「護送船団方式」は、今後も脱炭素対応の主流となる可能性が高い。

カテゴリー 社会貢献
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞2月10日掲載