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2022年2月08日

日産 地方で「MaaS」実用本格化、事業化の道探る

日産自動車が地方型モビリティサービスの実用化を本格化する。高齢化や人口減少による公共交通が縮小する地方での移動手段として期待される地方のモビリティサービスだが、事業として採算を確保するのは困難で、実証実験だけで終わるケースも少なくない。日産は貨客混載や地元の商業施設と連携するなど、モビリティサービスを土台にネットワークを広げて地域の活性化を促し、地方型モビリティサービスの事業化を模索する。

「MaaS(サービスとしてのモビリティ)は都市部の移動モデルとされるが、地方でこそやらなければいけない。やってみると。どれだけ必要とされているかが分かった」─。

日産は東京電力福島第一原発事故を受けて居住人口が激減した福島県浪江町で、2020年度から乗り合いタクシーサービスモビリティサービスを開始したが、同社の土井三浩常務執行役員総合研究所長は「一言でいうとびっくりするほど成功した」と、予想以上の利用に驚きの声をあげる。

日産が都市部で展開しているモビリティサービスは1日の利用件数が10件程度の日が多いのに対して浪江町の乗り合いタクシーは1日当たり平均36・5回利用されており、人口を考慮すると驚異的な利用実績となっている。サービスを利用するために登録した人の数は341人(昨年12月時点)と多くはないものの、稼働率が高く、生活の足としての需要が見込めることに自信を深めている。

それでも事業化に向けたハードルは高い。最大の課題は有償化だ。現在の利用は無償だから利用されている面も大きいとみられ、22年以降、検討しているサービスを有償に切り替えた場合「どれくらい使われるか読めない」(土井常務執行役員)という。

一方、日産に先駆けて、主に地方の高齢者を対象にした有償の乗り合いタクシーサービスシステム「チョイソコ」を展開しているアイシンでは「有償化してもサービス利用者数は減っていない」という。全国26カ所(21年10月時点)で各地の運行主体が有償でモビリティサービスを提供している。

19年4月に有償化した愛知県豊岡市では、無償運行時には月間乗車件数が200~400件程度だったが、有償でのサービスを本格化した後の利用件数は無償の時より増えているという。

アイシンがチョイソコの提供で重視しているのが「コト」づくりだ。自治体や地域の商店などと連携、地域住民などに外出を促す情報を会員に発信しており、地域の活性化にも寄与している。

地域と連携してサービスの輪を広げる活動は、日産も同様で、浪江町での本格的なサービスやその後の全国展開に向けて新たな価値提供を試みる。その一つが4日まで実証実験を実施してきた貨客混載だ。

地元にあるスーパーマーケットと組んで食品など、6千品目を、乗り合いタクシーで配達する。今後、地元商店などと連携して、住民や観光客に対して移動手段を提供、街ににぎわいを取り戻すための施策を積極的に打ち出していく構えだ。

国土交通省の「交通政策白書」によると2010~18年までに全国で9482㌔㍍の区間のバス路線が廃止された。コロナ禍で利用者が減ったこともあり、鉄道やバスなどの公共交通機関の経営は厳しく、ドライバーも不足している。過疎地で、免許を返納した高齢者の移動手段の確保が大きな社会問題となっている中、自動車関連企業もモビリティサービスを事業化するための模索を続けている。

カテゴリー 社会貢献
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞2月5日掲載