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2022年2月04日

自動運転の「目」量産化へ前進 自動車メーカー「LiDAR」開発強化

自動運転車の「目」となるLiDAR(ライダー)の実用化が本格化する。ライダーは車両の周囲360度の状況をリアルタイムで把握できるため、自動運転「レベル3」(条件付き自動運転)以上には必要不可欠なセンサーとされ、安全で高度な自動運転を実現するためのキーデバイスとなる。

自動運転「レベル4」(特定条件下における完全自動運転)の解禁に向けた法改正も見据え、自動車メーカー各社は自動運転の開発を強化しており、ライダーが高度な自動運転を実現するための主戦場となる。

360度をリアルタイムで把握

ライダーは「ライト・ディテクション&レンジング=光による検知と測距」の英語の頭文字をとったもので、極短時間発光した赤外線レーザーが対象物に当たって反射、これを受光するまでの時間差から対象物までの距離を計測するセンサーの一種だ。「レーザースキャナー」などとも呼ばれる。

レーザーは上下、左右にスキャン(走査)することで、広範囲の対象物との距離や位置を把握できるのに加え、対象物の形状も測定できる。これまでライダーを搭載した飛行機を使った地形調査などに活用されてきたが、高度な自動運転を実現するためのセンサーとしての役割が期待されている。

衝突被害軽減ブレーキなどの先進運転支援システム(ADAS)や自動運転は、カメラなどのセンサーを使って車両周囲のリアルタイム状況を正確に検知することで機能する。現在、実用化されている自動運転「レベル2」(特定条件下での運転支援)までの技術では、カメラやミリ波レーダー、ソナーなどのセンサーを組み合わせることで車両周辺の状況をクルマ側が認識している。

より高度な自動運転を安全性を確保した上で実現するためには、まず先行車、周囲の車、歩行者、自転車など、複雑な道路環境下でも車両周囲360度のリアルタイムでの状況を正確に認知することが求められる。カメラは物体を識別できるものの、正確な距離を計測できない。

ステレオカメラなら距離は計測できるが遠方だと精度が低下し、精度を向上するにはサイズが巨大化する。ミリ波レーダーは対象物までの距離は正確に把握できるものの、形状や位置を正確に検知できない。これに対してライダーは長距離を含めて対象物までの距離や位置、形状を3次元でリアルタイム測定できる。

自動運転向けとして初めて注目されたライダーは、グーグル(現在のウェイモ)が初期に研究開発用に使用していた自動運転車の屋根に、昔の日本のパトカーの赤色灯のように装着された機械回転式のものだ。モーターを使ってレーザーと検出器をクルクル回転させて車両の周囲360度全方位を検出する。

機械回転式は小型化が難しく、車両のデザイン上でも量産車に適用するには課題があった。何より1基当たり数百万円とコストが高額で、量産車に適用できるレベルではなく、もっぱら研究開発用で使用されてきた。

量産車向け次世代ライダーとして期待されているのがメカレスのソリッドステート式だ。回転機構部分を、半導体や光学技術に置き換えることで小型化が可能で設置の自由度も高い。メカを持たないため、部品点数も少なく、コストも機械回転式よりは抑えられる。

車両の四隅に搭載することで車両周辺360度のセンシングが可能となる。ソリッドステート式の中でも電磁式MEMS(微小電気機械システム)ミラーでスキャンするMEMS方式は小型でも広角スキャンが可能なため、センサー各社が開発に取り組んでいる。

ライダーが初めて量産車に搭載されたのは2017年に市場投入されたアウディのフラッグシップモデル「A8」だ。ヴァレオの機械回転式ライダー「スカラ1」をフロントバンパー下部に1個搭載した。車両前方を145度の角度で80㍍先までセンシングできる。

アウディはA8で量産モデルとして世界初の自動運転レベル3の投入を狙っていたが、ドイツ当局がこれを認めなかった。このため、A8は自動運転レベル2を実現するためのセンサーとしてはオーバースペックの性能を持つライダーを搭載して販売された。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞1月31日掲載