2022年2月04日
経団連 21年版経済・産業動向報告書、感染拡大で厳しい交通産業
日本経済団体連合会(経団連、十倉雅和会長)は「2021年版 経済・産業の動向と当面の政策課題に関する報告書」をまとめた。この中で、業績が著しく悪化している産業の一つに「交通」を取り上げ、鉄道、航空、バス・タクシーといった交通産業は厳しい経営状況が続いていると指摘した。当面の政策課題として、経済社会活動の活性化に向けた感染症対応、雇用および事業継続・業態転換支援などを挙げた。
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コロナ禍が続く中、産業の回復は「K字」の様相が長期化している。好調な産業は自律的な回復・成長、さらに日本経済をけん引する役割が期待される一方、業績の著しい悪化が続いている産業では、一時的かつ外的な要因により、赤字が続いている産業もある。
業績悪化が著しい宿泊・外食・交通・エンターテインメント産業は、GDP(国内総生産)に占める割合が12・9%、国内家計消費支出に占める割合に至っては24・1%に上るため、国内消費を活性化させていく観点からも重要である。
交通産業のうち、鉄道旅客は全般的に低迷している。特に、長距離の輸送を担うJRの21年の需要は19年の4~5割で推移した。リモートワークの進展による通勤需要の低下や、オンライン会議の普及による出張需要の減少などが背景にある。
今後もこの傾向は続き、コロナ前の水準に回復するとは考えにくい。例えばJR東日本では、22年3月末時点の定期外収入はコロナ前の85%に回復し、4月以降、新幹線では8割程度の水準で推移すると想定している。一方、定期収入は22年3月末時点で80%まで回復するが、その後は同水準で推移するとみている。
航空産業は国内線が21年11月まで回復傾向にあったが、感染拡大の影響によりその後、低迷している。国際線は19年の1割程度と極めて低位で推移している。
今後の旅客数についてANAホールディングスと日本航空では、国内線はコロナの収束やペントアップ(繰り越し)需要の顕在化により、今年度末にかけ19年の8~9割の水準に戻ると見込んでいる。一方、国際線は各国の渡航規制による需要低迷で回復の動きは緩やかにとどまる見通しとなっている。
バス・タクシー産業は鉄道・航空同様、低迷が続いている。特に高速バスは19年比6~7割減と大幅減で推移している。一般路線バス・タクシーも同2~3割減と回復していない。
わが国経済は21年に入り断続的な感染拡大と長期に及ぶ行動制限措置の影響、21年夏以降、半導体不足やサプライチェーンの混乱に伴い、生産・輸出も減少に転じたため停滞し、先進国の中で回復が最も遅れている。
コロナ禍が長期化するなかで、宿泊・外食・交通・エンターテインメントといった産業は厳しい経営環境が続いている。リモートワークの普及など〝コロナショック〟を機に社会構造の転換が進み、従来のビジネスモデルでは立ち行かなくなる恐れもある。
経団連が会員向けに実施したアンケート調査では、短期の政策要望として、ワクチン接種や治療薬、水際対策の適正化といったコロナ対応のほか、デジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーントランスフォーメーション(GX)推進への支援を挙げる企業が多数あった。
これらを踏まえ、今後の政策課題としては経済社会活動の活性化に向けた感染症対策、雇用および事業継続・業態転換支援、DX・GXなどを通じた成長戦略の実現に向けた支援策が求められる。
雇用および事業継続・業態転換支援では、コロナ禍で著しい業績悪化が続いている事業者に対し、事業継続支援を引き続き行う必要がある。これまで、雇用面では雇用調整助成金の特例措置や産業雇用安定助成金などにより、失業率の急激な上昇が抑制されてきた。今後の雇調金特例措置の取り扱いについては、雇用情勢を踏まえ慎重に検討する必要がある。
新たな経済社会構造への変化によって、従来のビジネスモデルからの転換を迫られる事業者も存在する。こうした事業者に対しては、業態転換の推進、М&A(合併・買収)の推進など、事業者のニーズに応えつつ、新陳代謝を促し生産性向上につなげていく必要がある。
成長と社会課題の解決を同時に目指すサステイナブルな資本主義を実現するにはDX、GXの促進が不可欠である。単年度主義にとらわれない複数年度による予算措置、研究開発税制の強化、投資減税措置の拡充・創設、一層の規制・制度改革の推進も必要になる。
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
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対象者 | 自動車業界 |
日刊自動車新聞1月31日掲載