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2022年1月06日

ディーゼル向け尿素水不足が深刻化 国内トラック9割の運行に懸念

国内でディーゼル車用尿素水不足が深刻化している。中国の輸出制限に伴って韓国でディーゼル車用尿素水が不足して社会問題になっていたものが、日本にも波及。大型車販売店によると「(尿素水の)注文は殺到しているのに、とにかく在庫がない状態」という。尿素水がなくなるとディーゼルトラックは走行できなくなる。尿素水不足によって物流にも影響が広がることが懸念される。

尿素水は、アンモニアで排出ガスの窒素酸化物(NOx)を低減する「尿素SCRシステム」を搭載しているディーゼル車に必要。国内の約9割のトラックが同システムを搭載しているとされるが、尿素水がなくなるとエンジンがかからない仕組みになっている。

日本で流通している尿素水は海外からの輸入尿素をもとに作られているものも多い。尿素の主要輸入先の一つである中国は昨年、政治問題から豪州産石炭の輸入を禁止した。尿素は石炭が原料であるため、中国で尿素水が品薄となったことを受けて中国政府が11月に尿素の輸出を制限した。これによって韓国や日本で尿素不足に陥っている。

尿素水メーカーの社員は「中国からは(原料の尿素が)11月中旬から全く入ってきていない」という。尿素の調達先を複数確保しているため、生産、供給は継続しているものの「原料が限られているのに、注文は従来を上回る水準」で、正常化が見通せない。

運送事業者のディーゼル車に尿素水を販売している大型車販売店も調達が困難な状況が続いていると口を揃える。大型車販売店では、トラックの顧客にも量を制限して販売している状態だ。取引のなかった事業者からも問い合わせが殺到しているものの、断わらざるを得ない状況だ。尿素水の調達先からの入荷のめどが立っていない。すでに「来年春先まで(混乱が)続く」と予想する大型車販売店もある。

トラック運送事業者が尿素水を確保できなければ、食品や医薬品などの物流に影響を及ぼしかねない。業界団体の全日本トラック協会(坂本克己会長)は「会員企業から(尿素水が)手に入りづらい状況と聞いている」とする。日本通運は「現状(事業に)影響は出ていないが、引き続き(状況を)注視する」と、情報収集を進める。

尿素水は除雪車にも必要だ。除雪車を運用する国土交通省・東北地方整備局は、「現状すぐに支障があるということはないと聞いているが(尿素水の品薄状態は)認識はしている」としている。寒波の到来に備えて「除雪車が尿素水不足で稼働できないということがないよう、対応していきたい」(関東地方整備局や東北地方整備局)とする。

一方、日本でも尿素水の入手が困難になったため、インターネット上では高額で転売する〝転売ヤー〟が横行している。20㍑=3万円など通常の10倍程度の価格で出品されるケースも見られる。大手フリーマーケットアプリを運営するメルカリ(山田進太郎社長、東京都港区)は高額転売尿素水の出品や購入に冷静な行動をとるよう注意喚起している。

経済産業省もこうした状況を受けて尿素の国内生産事業者に対し、最大限の増産を要請している。中国以外からの輸入も拡充される見通しで、経産省によると1月中には、原料となる尿素の国内供給量が平常時の需要量全体を上回る見通しになったとしている。

尿素水不足が長引けば、物流トラックの稼働にも影響し、経済回復にも水を差すことになりかねない。物流問題への波及を防ぐためにも尿素水不足問題の早期解決が求められている。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞12月27日掲載