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2021年12月08日

日本自動車輸入組合 輸入EV試乗会、各ブランドが差別化戦略

電気自動車(EV)の市場拡大が見込まれる中、国内では、海外自動車メーカーの輸入EVが商品展開では先行している。ただ、一口にEVと言っても訴求点や乗り心地は大きく異なる。

内燃機関車の開発で培った特徴を、EVにも反映させるなど、独自色を打ち出したモデルや、EVならではのトルクフルな走行性能を前面に打ち出したモデルなどさまざまだ。複数の輸入EVに試乗し、各ブランドでのEVの位置付けやターゲットとする顧客層などを調査した。

日本自動車輸入組合(JAIA、クリスチャン・ヴィードマン理事長)が11月下旬に報道関係者向けに開催した「輸入電動車試乗会」では、試乗用のEVなど合計22台の電動車を用意した。

EVを試乗して感じたのは、モーターによるトルクフルな走りを前面に打ち出して、ガソリン車とは異なるスポーツ走行を体験できるモデルと、走行性能をガソリン車に近付け、EVに抵抗なく乗り替えることができるように配慮したモデルとに大きく分かれたことだ。

中でも目を引いたのは11月4日に発売されたばかりのBMW「iX」「iX3」で、試乗すると、この2モデルの違いは鮮明だ。BMWの量産車として初となるEV専用プラットフォームを採用したiXは、内外装のデザインが先進的で、高い加速感が特徴だ。加減速時の荷重移動を抑制、路面を滑らかに走る印象だった。

BMWジャパンの担当者は、ガソリン車にはない新鮮な走行感覚で「EVの複数モデルを比較検討する『新しいもの好き』のユーザーに訴求できるのでは」という。

iX3は内燃機関車に近い走り心地を目指したモデル。「X3」をベースに、内外装デザインもベース車を踏襲した。「顧客に提案できる選択肢を増やすことに意義がある」(BMWジャパンの担当者)としており、内燃機関車ユーザーが抵抗なくEVに代替できる商品と位置付ける。走りの味付けが異なる新型EV2車種を軸に、顧客の使用方法などを考慮してEVの販売を促進していく。

iX同様に力強い加速感を体験できるのが世界のEV市場をリードするテスラの「モデル3」だ。テスラモーターズジャパンの担当者は「重視しているのは新規顧客の取り込み。とりわけ50~60歳代など、長く内燃機関車に乗っている人に訴求して(ガソリン車やディーゼル車との)違いを知ってもらいたい」と話す。

既納客への訴求を第一に据えるのがメルセデス・ベンツ(MB)だ。今年4月に市場投入した「EQA」は、コンパクトSUV「GLA」のEVモデル。車室床下にバッテリーを搭載することで低重心化し安定した旋回性を確保。車内の静粛性はEVそのものだが、パワートレインの挙動は内燃機関車に極めて近い。

このため「購入した顧客の多くは既納客による代替や増車で、違和感なくEVに乗り替えられるとの声が多い」と話す。メルセデス・ベンツ日本(MBJ)では、既存の顧客を中心にEVへの代替を促していく方針だ。

内燃機関車で積み上げてきたブランド力をEVでも生かそうとの狙いも垣間見える。ポルシェの「タイカン」とアウディの「イートロンGT」は共通プラットフォームを採用しているものの、走りの味付けは異なる。

コーナーリングでもしっかりと踏ん張り、スポーツカーらしい走行性能を前面に打ち出しているタイカンに対して、イートロンGTは足回りの硬さを抑え、快適性の比重を高め、ツーリングカーとしての使用に配慮した。ポルシェジャパン、アウディジャパン双方の担当者によると「乗り比べて購入を決める人が多い」という。

構造が簡単で電気モーターと電池、インバーターで駆動するEVは差別化が難しいとされる。ただ、今回の試乗を通してEVでも独自のカラーを打ち出すことに注力していることを実感した。課題はブランドごとに異なるEVの特徴を消費者にどうやって伝えるのかで、各社とも試乗車の増強などを視野に入れる。

MBJの担当者は「初のEVとして19年に発売した『EQC』は一部拠点にしか試乗車を配備できず、購入検討者の背中を押す決め手を欠いていた」と話す。こうした反省から新型車EQAの市場投入では3割超の店舗に試乗車を配備し、「好調な受注を獲得している」(同)。

また、試乗などを通じてEVを気に入った顧客が購入を検討する段になって、障壁となるのが内燃機関車との価格差だ。BMWのX3とiX3の価格差は約160万円と、補助金を受けてもその差は大きい。BMWジャパンの担当者は「価格差を埋めるには、燃料代と電気代のコスト差で吸収するよう長期保有を推奨することになる」と話す。

政府はEV購入時の補助金を最大80万円に引き上げる方針だが、高い価格からEV購入に二の足を踏む消費者の背中を押すほどにはならない見通し。

国内のEV市場は輸入EVがけん引しているものの、シェアは1%程度にととまる。22年にはトヨタ自動車「bZ4X」、スバル「ソルテラ」、日産自動車の「アリア」、日産と三菱自動車の軽自動車クラスのEVなど、国内自動車メーカーが相次いで新型EVを市場投入する予定で、日本のEV市場拡大も予想される。他のブランドと差別化を図りながら、どうEV市場を開拓していくのか、輸入車を含めて各社の取り組みが注目される。

カテゴリー 展示会・講演会
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞12月4日掲載