会員向けクルマ
biz

INFORMATIONクルマの情報館

自動車産業インフォメーション

2021年10月22日

スズキとダイハツ、農業活性化へ協力 軽トラ市場縮小に危機感

軽自動車市場でライバル関係にあるスズキとダイハツ工業が農業関連事業で手を結ぶ。兵庫県丹波篠山市の農家を支援するダイハツの活動に、スズキが社員を派遣して協力する。軽トラックの主要顧客である農家の多くが労働力不足や後継者不在などの問題を抱えている。

「競争する場所が小さくなる。ここを守って広げなければいけない」―。軽トラック市場が縮小するとの強い危機感を両社が共有し、農業を活性化するために協力する。

ダイハツの農業支援活動にスズキが協力したのは今年の夏からだ。両社が参画したトヨタ自動車グループの商用車の技術企画会社であるコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)を通じて両社が接触、ダイハツの活動を知ったスズキが常駐1人を含む複数の従業員を丹波篠山市に派遣し始めた。

丹波篠山市では2020年にダイハツがドローンによる農薬散布サービスの実証実験を実施している。農薬の散布では通常、農業従事者が数十㌔㌘の農薬タンクを背負って散布するが、特に高齢者にとっては大きな負担となっている。

ダイハツは顧客の困りごとを解決する一環として、軽トラックに搭載したドローンで農薬散布を自動化する技術を開発した。実証実験では現地にオフィスを構え、生産部門や設計開発部門の社員8人が中心となって20年に20カ所、21年には64カ所で農薬散布を自動化した。

スズキは11年に静岡県に自社農園を開設し、地域の農業振興や遊休農地の活用を推進してきた。また、電動車いすをベースにした屋外作業支援モビリティ「モバイルムーバー」を開発し、農業支援などで活用している。

ダイハツはトヨタの完全子会社、スズキはトヨタと資本提携しており、スズキとダイハツはトヨタを介してつながりがある。ただ、軽自動車市場では長年、ライバル関係にあり、互いに激しいシェア争いを展開してきた。その両社がCJPTでの活動を機に接近し、衰退が懸念されている農業を支援していく活動で協力していくことで合意した。農家の支援活動を展開するダイハツのチームにスズキの社員も加わって、農薬散布の自動化や農地でのモバイルムーバー活用を検討する。

ダイハツの社員と協力して農家の支援活動を行っているスズキモビリティサービス企画部の稲垣和崇氏は「現場に入ったことで農家のニーズやダイハツの取り組みを学べた」という。一方、ダイハツで農家を支援するチームのリーダーを務める田村明久氏は、スズキの協力によって「新しい気付きもある」としており、互いが学ぶ場になりつつある。

農林水産省によると、日本の農業総産出額はピークだった1984年の11兆7千億円から漸減し、19年には8兆9千億円に縮小、食料の自給率低下に歯止めがかかっていない。背景にあるのが農家の労働者不足や高齢化、後継者不在で、廃業する農家も少なくない。

そして軽トラック市場も農業の衰退に比例するように縮小している。1993年度に約80万台だった国内軽トラック市場はここ数年、40万台前後へと半減している。軽トラックからスバル、ホンダが撤退した。

軽自動車メーカーであるスズキ、ダイハツにとっては軽トラックは自動車事業の原点でもある。軽トラックという世界的にも特殊なセグメントを維持するため、ドローンや新しいモビリティなど、最新技術を組み合わせて農家の負担を軽減、国内の農業の活性化を図る。

カテゴリー 社会貢献
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞10月19日掲載