2021年10月06日
ホンダ 事業領域を拡大、「空飛ぶクルマ」30年代に実用化
ホンダは事業領域を空、宇宙そしてバーチャルの世界に拡大する。航空機事業「ホンダジェット」に続いて、より簡単、快適に「空の移動」を実現するため「空飛ぶクルマ」と呼ばれる電動垂直離着陸機(eVTOL)を2030年代に実用化する。再使用型の小型ロケットを開発するとともに、月面での循環型再生エネルギーシステムの構築や月面遠隔操作の研究にも乗り出す。
遠隔地にいながらその場でモノを扱える「アバターロボット」(分身ロボ)は30年代の実用化を視野に開発する。二輪車や四輪車で培ってきた技術を生かして新しい領域に参入することで、縮小均衡で意気消沈する内燃機関などのエンジニアに「夢」を持ってもらう。
ホンダの三部敏宏社長は、今年4月の社長就任会見で「モビリティを3次元、4次元に拡大していく」と宣言、移動に関する新たな領域に積極的に打って出る姿勢を鮮明にした。その具体的な取り組みとなるのがeVTOL、再使用型の小型ロケットや月面での活動、バーチャルな移動が可能なアバターロボットだ。
四輪車事業の利益率低迷など、業績面では決して好調とはいえないホンダが、空飛ぶクルマや宇宙といった一見して無駄な投資にも映る新領域に挑戦するのは「技術で人の役に立ちたい」というホンダ創業以来の精神が根幹にある。
新領域の技術開発を手がけるのは20年4月に四輪車の開発機能をホンダ本体に移管して、先行技術開発が業務の中心となった子会社の本田技術研究所だ。若手の研究者を中心に、既存の事業にとらわれず新しい大胆な発想で研究することが期待されている。
研究所の大津啓司社長は「単なる夢追いではない。できるからやる」と、将来の事業化に自信を示す。ホンダは自動車メーカーでは珍しく二輪・四輪車事業以外も汎用機や航空機など、事業の多角化に積極的だ。ただ、過去には新規事業をうまく収益につなげられなかった経験も少なくない。
人型ロボット「ASIMO(アシモ)」は20年に開発を終えた。今回はこれらの経験を糧に「市場ニーズを見極めたうえで事業拡大の一環のつもりでやっている」(大津社長)と、ホンダの既存事業で培ったコア技術を生かすチャレンジになるという。
例えばeVTOLでは飛行距離を確保する「現実的な選択」(川辺俊フェロー)として、電気自動車(EV)などの開発で培った電動技術と、航空機用エンジン開発でノウハウを積み上げたガスタービンによるハイブリッドにする。バッテリーで飛行するタイプの飛行距離は最大100㌔㍍程度が限界だが、ハイブリッド化によって400㌔㍍にまで伸ばせる見通し。既存技術を応用して実用的なeVTOLを開発して新市場を開拓する。
宇宙領域への挑戦も同様で手の内にある燃焼技術を生かして再使用型小型ロケットを開発する。若手技術者の発案を機に19年末に開発に着手し「わずか2年で(ロケットで用いられる)拡散燃焼テストにこぎつけた」(小川厚執行役員)という。
今後、自動運転技術での制御や誘導技術を生かし、打ち上げ後にロケットの一部を着陸させ、再使用する研究も手がける。このほか、アバターロボットの開発ではアシモなどのロボティクス技術を応用する。
ホンダは40年までに新車販売を全てゼロエミッション車(ZEV)にして内燃機関から撤退する方針を掲げたが「エンジン屋集団」と呼ばれてきただけに落胆している技術者もいる。ホンダはこうしたエンジニアらにロケットや空飛ぶクルマなど、新しい挑戦の場を与える。「変化の大きい時代だが、今を守るわけではなく攻めて未来を創る」(大津社長)。無謀な挑戦を続けることで成長してきたホンダが蘇ったかもしれない。
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
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対象者 | 自動車業界 |
日刊自動車新聞10月1日掲載