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2021年9月09日

自動車定期点検基準、10月から一部改正 電子化でOBD項目追加

10月に自動車点検基準の一部の改正で、1年ごとの定期点検の項目にOBD(車載式故障診断装置)を活用した「診断の結果」が加わる。先進運転支援システム(ADAS)や自動運転システムの普及に対応する基準変更になる。定期点検自体はユーザーの義務だが、それを請け負う整備事業者として適切な方法での点検が求められる。

その一方で、「点検項目を追加する大きな改正は久しぶりで、整備事業者にとってユーザーに(実施率が低い)定期点検の入庫を訴えていく良い機会になる」(業界関係者)と捉える向きもある。

定期点検への「OBDの診断の結果」の追加は、警告灯の点灯で車両が保安基準不適合のおそれがある状態かどうかを確認できる設計になっていることを自動車メーカーから確認できたことを踏まえて実施する。

対象装置は原動機や制動装置、アンチロックブレーキシステム(ABS)など共通するものに加えて、緊急自動ブレーキやレーンキープアシスト、自動運行装置などの電子制御装置も含む。従来は機構部品の摩耗や損傷といった点検のみだったが、車の電子化に合わせた点検項目が加わった。

今回の基準の見直しには、整備事業者の中でも温度差がある。東北地方のある整備事業者が「定期点検で外部故障診断機(スキャンツール)をつなぐのは当たり前。今更感がある」と指摘する一方で、中部地方のある事業者は「(8月中頃時点で)当社に入庫する車両が対象かどうなのか分からない」と戸惑う声もある。

OBD点検の対象は、「OBDを搭載するほぼすべての車両」(国交省)となる見通しだ。車種は24年10月に始まるOBD検査対象外の大型特殊自動車と被けん引自動車、二輪自動車を除く車両が対象になる。2020年4月に始まった電子制御装置整備認証の対象車両と混同しがちだが、定期点検で入庫するほぼすべてで点検を行うものとして準備を進めなくてはいけない。

点検方法は警告灯の点灯や点滅を目視で確認するのみだが、不適合のおそれがある時にスキャンツールなどをつないで自動車メーカーのマニュアルに従って整備する必要がある。国交省では「ユーザーにスキャンツールを用いた過度な負担は義務付けていないが、整備事業者の皆さんにはユーザーから定期点検を請け負う時はプロとして、スキャンツールを用いて点検、整備を行ってほしい」とする。

整備事業者としてはスキャンツールを用いることに対して、ある整備団体は「しかるべき作業の対価として工賃をもらう」とする一方で、別の団体は「工賃に反映させるかは各社の判断に任せる」など意見はさまざま。前出の東北の事業者のように、すでにスキャンツールを用いて点検する例もあり一概には比較できないが、工賃を上乗せする場合はユーザーへの丁寧な説明が求められることになりそうだ。

また、点検基準の変更で、指定工場の保安基準適合証の交付にも影響が出る。特定整備制度が施行した20年4月までにエーミング作業の実績がなく、電子制御装置整備認証を取得していない事業者は10月以降に同認証の対象車種に対して保適証が交付できなくなるため注意が必要だ。

定期点検は実施率が低いといわれており、国交省の資料によると、01~03年の調査では自家用車で4割程度だった。ADASや自動運転が取り沙汰されるばかりで、これらに必要な点検、整備に注目が集まらない印象がある。車販や車検整備などのタイミングで必要性を訴えることで、定期点検の入庫増を図っていくことが肝要だ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞9月2日掲載