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2021年8月16日

政府、カーボンプライシング本格導入へ前向き 産業界に慎重な声も

温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)に〝価格付け〟をして排出削減を促す「カーボンプライシング(CP)」の本格導入の機運が高まってきた。3日に開催された「気候変動対策推進のための有識者会議」で菅義偉首相が「(CPは)成長に資するもの、躊躇なく取り組む」と宣言。

小泉進次郎環境相も「CPの強化は不可欠」とし、制度化の前進に意欲を示した。その一方で、CO2の排出量が多い製造業を中心とした産業界では「炭素税」などの導入に慎重な声が根強く、官民の間で大きな温度差があるのが実情だ。

「炭素税などのCPによる追加的負担は、技術開発や設備投資の原資を奪う」-。3日の有識者会議で、日本製鉄の橋本英二社長はCPに対する見解をこう説明した。同社は「50年までのカーボンニュートラル(CN)実現」に向け、コークスを水素に転換してCO2排出を抑える新しい生産技術の確立を目指している。

実現には5兆円規模の投資が必要なほか、製造コストが従来の2倍以上になると試算。コークスフリーへの移行過程で炭素税などの負担が発生すると、脱炭素化に向けた投資に多大な影響が生じかねないと懸念している。

企業に追加負担を強いるCPに対して産業界は、従来から慎重な姿勢を示してきた。経済産業省も同様に慎重だ。

近く実証を予定する「カーボン・クレジット市場(仮称)」では、温室効果ガスの削減量に合せて〝貯金〟できるクレジットの獲得で有利な再生可能エネルギーの活用を後押しする仕組みをつくるが、再エネはコストが割高なこともあり、参加の有無は企業に委ねている。さらに税金として社会全体に課す炭素税の導入までには踏み込まなかった。

その一方で、欧州や中国では炭素税や排出量取引などをすでに導入しており、欧米ではCO2の〝価格が低い国〟で作られた製品に事実上の関税をかける「炭素国境調整措置」が検討される。日本の対応が遅れれば、該当国への輸出時に、日系企業のコスト負担が増す恐れもある。

小泉環境相は「CPの産業界の課題は前々から言われている。どう(企業の)成長に繋げる形にするか、中身の問題だ」とCPの導入を前提に見据える。

ただ、CNの達成に必要な投資に企業、産業間で差があることにも理解を示し「排出量取引において、欧州連合(EU)のように炭素集約型の産業に(排出枠の)無償割り当てを行うことなども検討する」とし、CPが企業投資の足かせにならない手段を模索する。

国際競争力と地球環境保護の観点から、CPの導入は待ったなしだ。企業の投資負担と経済成長のバランスを取る仕組みづくりと、温暖化対策の意義を見直す企業意識の醸成が求められる。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞8月7日掲載