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自動車産業インフォメーション

2021年7月13日

部品メーカーが注力 新規事業で社会課題の解決に貢献

気候変動や食料の安定供給、医療・介護など社会課題を解決する事業に自動車部品メーカーが力を入れ始めた。デンソーや愛知製鋼が農業の生産性向上を支援するほか、アルミ圧延大手のUACJや日本ピストンリングは医療分野での貢献を目指す。

自社の技術や設備を駆使した新事業を通じて収益基盤を固めるとともに、社会課題の解決に前向きな企業姿勢を示し、投資家や市場の期待に応える狙いもある。

◆収穫量向上や土壌改良に貢献―デンソー、愛知製鋼

デンソーは三重県いなべ市で国内最大級の農業用ハウスを農業法人と共同運営している。センサーでハウス内の環境を制御したり、自動搬送装置や収穫ロボットを導入して生産性を高めていることが特徴だ。

昨春には農業設備などを扱うオランダのセルトングループに出資し、植物工場などの開発や販売で協業する。有馬浩二社長は「農産物をいかに効率良く作り、保管し、配送するか。トレーサビリティーみたいなものも合わせてやっていく」と話す。

愛知製鋼は特殊鋼の製造ノウハウを生かし、植物へ鉄分を供給する農業資材を開発している。アルカリ土壌畑で稲の生育を手助けする「PDMA」や柑橘類特有の病害を防ぐ「CG病対策材」などだ。いずれも本格発売の準備を急いでおり、藤岡高広社長は「PDMAはアフリカの干ばつ地帯などに供給価値を見出している」と期待する。

◆医療・介護やロボットに貢献―UACJ、日ピスなど

UACJは、「開封検知付アルミ箔」を使用した服薬管理システムを共同研究中だ。患者が服薬を開封した際、回路印刷箔が包装材の破断を検知、スマートフォンなどの通信機器で家族や医師に通知する仕組みだ。

薬の過剰摂取や飲み残しを防ぎ、患者の健康維持につなげられる。石原美幸社長は「新しいビジネスモデルの展開によって社会課題の解決に貢献する」と話す。

医療用術具として日本ピストンリングが提案するチタン・タンタル合金「ニフリート」は、もともとピストンリング用に開発した素材だ。梶原誠人取締役は「ニッケルフリーで体内に入れても安全が確保できるほか、エックス線の視認性に優れる特徴を持つ」と説明する。

こうした医療機器関連事業を強化するため、医療機器メーカーのメドトロニックと植込型医療機器協同開発プログラムを先月から始めた。

バンドー化学も、エラストマー材料の配合技術やフィルム加工技術などを基に静電容量式伸縮性ひずみセンサーを開発。この技術を用い、同社子会社が昨秋に足関節の状態を計測する機器を、先月には呼吸数を計測する機器を発売した。

将来はこのセンサーを喉に貼り付け、嚥下(えんげ)の能力や回数の可視化にも役立てる考えだ。豊田合成は細胞を生体に近い構造で培養できる「ウレタン微細発泡膜」の事業化を目指している。動物実験の代わりになり、開発期間の短縮などにも役立つという。自動車用ステアリングで蓄積したウレタン材料の技術を応用した。

ブリヂストンは今月、ロボット向けの新材料を扱う事業を新たに立ち上げた。柔軟な動きをち密に制御する「AIセンシングラバー」や軽さが特徴の「ラバーアクチュエーター」などを製造用から家庭用まで幅広いロボットに応用し、ロボットと人が共存できる社会を目指す。

エアバッグ用インフレーターなどを手がける日本化薬は、物流や災害対策などで活躍するドローン(無人航空機)用のパラシュートを年末にも発売する。

◆高効率機器や再エネ機器に貢献―アイシン、ジェイテクト

エネルギー関連ではアイシンが家庭用燃料電池「エネファーム」やエネルギー効率の高いガスヒートポンプ(GHP)機器を手がけるほか、ステアリング大手のジェイテクトは水素脆化(ぜいか)に強いベアリングや、洋上大型風力発電機向けのベアリングで受注を狙う。

自動車部品メーカー各社はこれまでも自社の技術を応用し、家庭用や産業用などの新規事業に挑戦してきた。ただ近年は、社会課題の解決に貢献する事業にシフトしつつある。少子高齢化や教育などで事業機会を探る東海理化の二之夕裕美社長は「自動車部品だけでは世の中から認められない。これからは社会のお役に立たないといけない」と指摘する。

カーボンニュートラルへの取り組みやESG(環境・社会・ガバナンス)投資なども背景に、こうした動きは今後も広がりそうだ。

カテゴリー 社会貢献
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞7月10日掲載