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自動車産業インフォメーション

2021年6月10日

化学大手 モビリティ分野強化、EV市場拡大で

自動車の川上産業である化学メーカーがモビリティ分野で事業を強化している。電動車両の普及が本格化することが見込まれるため、リチウムイオン電池関連製品の生産能力増強や、車体の軽量化につながる材料の研究開発、拡販を強化している。「当たれば大きい」とされるモビリティ分野に向けた化学大手の視線は熱い。

電気自動車(EV)市場の拡大を見込んでリチウムイオン電池用セパレーター事業を強化しているのが旭化成だ。生産能力を2023年度には年間19億平方㍍とし、将来的には30億平方㍍にまで引き上げる計画だ。住友化学も、車両の電動化で需要が見込めるリチウムイオン電池材料の投資を増やしている。

傘下の田中化学研究所が投資を拡大し、生産能力を増強してきたリチウムイオン電池用正極材製造拠点の「20年度の稼働率は40%くらい」(岩田圭一社長)にとどまる。それでも21年度以降、投資の回収が進むことを見込む。

宇部興産の泉原雅人社長は「EV市場拡大でセパレーター需要も増加するが、中国プレーヤーのプレゼンス拡大により価格競争は激しさを増す」と警戒する。機能やコスト面を重視して乾式のメリットを生かせる領域で、競合とは距離を置きつつ、事業の拡大を図る構えだ。

自動車業界のトレンドである電動化や自動運転に対応する軽量化や車内の快適性向上といったニーズにも各社は積極的に対応していく方針で、生産能力の増強や事業拡大に取り組む。

旭化成は18年に買収した内装材メーカーの米セージのデザイン性を生かし、地域ごとに最適化を図った素材の提案と供給体制の構築に注力する。自動車分野での事業拡大をもくろみ、セージの売り上げで21年度に8億㌦(約880億円)、中期目標として10億㌦(約1100億円)を目指す。

住友化学は、自動車部品の金属代替用途としてスーパーエンジニアリングプラスチックを提供しているが、すでに「生産はフル稼働状態」(岩田社長)という。今後、自動車の電動化に伴う軽量化ニーズから需要拡大が予想されるため、今年度内に生産能力の増強を決める方針だ。

同社は成長を見込む第5世代移動通信システム(5G)やモビリティ向けの材料開発も強化する。24年に千葉エリアで5Gやモビリティを中心とする研究棟を新設する。「研究開発テーマは日々変化するため、柔軟に対応できる研究棟にする」(同)予定。

化学メーカーは従来、自動車や部品メーカーの要求を満たす素材を開発・供給してきた。自動車の材料置換が見込まれる中、課題解決や提案型のソリューション型ビジネスに移行する動きも見られる。

三井化学は、経営戦略の大きな柱としてソリューション型ビジネスを掲げる。複数の事業部門を連携して「業態を限定せずに提携やM&Aに取り組む」(橋本修社長)ことで、提案型ビジネスに移行していく。

旭化成もモビリティ分野拡大に向け提案型ビジネスへのシフトを目指す。高機能なCAEなどを用いて新しい素材を使った部品の活用方法などをサプライヤーに提案する。

自動車は受注してから実用化されるまでの期間は長いものの、1度受注すると息が長いため、素材メーカーにとっては経営の安定化につながる。脱炭素化や電動化が加速して自動車は大きく変わろうとしている中、化学各社はモビリティ向けが事業拡大のチャンスと見て、先行投資を本格化させている。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞6月7日掲載