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2021年5月27日

AIで自動車教習所の課題を解決 人に代わり運転技術を指導

東京大学大学院情報理工学系研究科の加藤真平准教授らの研究グループは、自動運転技術と人工知能(AI)を活用し、自動車教習所の教習指導員の代わりにAIシステムで運転実技を教習する「AI教習システム」を製品化したと発表した。

まず指導員を模範とした運転モデルを開発し、これに数センチ単位で車両の位置推定や障害物検知を可能にする自動運転技術を組み合わせて、教習生の運転操作の定量評価を実現。さらに障害物との接触などを予測し、自動的にブレーキをかけて危険を回避するシステムに仕上げた。

人材が不足する指導員の業務負荷軽減と、平均2、3カ月の予約待ちが生じた新規免許取得者や高齢運転者講習の受け入れ拡大につながる技術として注目される。

科学技術振興機構(JST、濵口道成理事長)の研究プログラム「完全自動運転における危険と異常の予測」の一環として、名古屋大学大学院の武田一哉教授らとともに教習システムを製品化した。

完全自動運転システムに対応する運転モデルの構築は、実際の走行環境や道路環境に無限の条件があることを踏まえて「運行設計領域(ODD)」を設定する必要があり極めて難しい。

しかし、今回は指導員の運転を模範とし、ODDは自動車教習の範囲に限定。さらに指導員の評価項目のみを教習生の運転良否の判断指標に用いるなど必要条件を一定範囲に絞り込み、運転モデルの開発を実現した。

運転モデルの再現では、カメラやレーダーをセンサーに使用すると自動車教習に必要な高精度の位置推定や障害物検知ができなかった。

このためライダーをセンサーに採用するとともに、ライダーで得た情報を高精度地図に照らし合わせながら位置推定、障害物検知を行える自動運転ソフトウエア「Autoware(オートウエア)」を活用して、センチメートル単位の精度を実現した。オートウエアは加藤准教授が開発したソフトで、その能力を引き出した。

さらに、車内に設置したカメラで取得した画像からAIの機械学習モデルでドライバーの顔向き推定することを可能にした。

その情報を運転モデルに加えることによって、右左折前の車両の寄せ方、目視による周囲確認といった運転操作と、教習コースのショートカット、大回りなどの運転状況を指導員と同様な目線(同等な精度)で評価する「ルールベースの評価手法」を構築した。

この評価手法を自動車教習に適用するため、教習コースの経路を複数区間に分割し、区間ごとに評価指標とその閾値(しきいち、良否判定の境)を設定した。そして閾値の範囲外の操作・状況を異常と判定し、その結果をドライバーに伝えるAI教習システムとして仕上げた。

異常と判定した中で、特に危険な操作・状況に対しては指導員の補助ブレーキ操作と同様に、システムで自動的にブレーキを制御して危険を回避する機能を実現した。

自動車運転教習所は、教習指導員の高齢化や採用難による人材不足で生じた教習生の予約待ちの解消、2022年6月に開始の「高齢者技能検査」で見込まれる年間15万人以上の利用者受け入れが課題となっている。

これらの解決を目指し、加藤准教授らは AI教習システムを自動運転ベンチャーのティアフォー、南福岡自動車学校を運営するミナミホールディングスとともに製品化した。

今後は「免許未取得者を集めてデモテストを行い、その結果を踏まえて市販のタイミングを決める予定だ」(ティアフォー、橋本健氏)という。

今回のAI教習システムの製品化は、難易度の高い完全自動運転の研究過程で生み出された成果の社会実装を実現したケースの一つといえる。今後もさまざま成果の応用、実装が進み、自動運転技術が自動車を取り巻く安全・環境問題の解決に貢献していくことが期待される。

カテゴリー 交通安全
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞5月24日掲載