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2021年5月26日

オートバックス デジタル技術でスマート農業や地域医療支援

オートバックスセブンが、デジタル技術を活用した収益基盤の構築を本格化している。4月に開始した中古車個人間取引(CtoC)サービス「クルマのえん」では、ブロックチェーンを活用することで車両データや取引記録の合理的な管理を可能とした。

半面、自動車関連領域への実装のためだけに、一企業がこうしたデジタルトランスフォーメーション(DX)に投資するのは限界がある。同社はスマート農業や地域医療支援などの新規ビジネスにも共通のICT(情報通信技術)を応用することで、データの充実と開発の効率化を図っている。

クルマのえんで開拓を図る顧客層の一例が、カスタマイズパーツ装着車などのオーナーだ。従来型の中古車買い取り・販売ではカスタマイズ車などの属性は査定に反映されにくい半面、ニーズと合致すれば相場以上での売買にもつながりやすく、CtoCを提案できる余地が大きいという。

用品事業で獲得したこうした顧客層を取り込んで他社サービスと差別化するとともに、独自査定システム「査定ドクター」を用いて出品前に合理的な金額を算出可能として、ユーザーの納得感も確保する。

サービスに組み込んだのがブロックチェーン技術だ。分散型でトレーサビリティー(追跡可能性)にも優れるブロックチェーンは流通領域との親和性に優れることから、2016年に中古カー用品のCtoCで実証実験を実施するなど、同社は早くから事業化に向けて着手してきた。

中古車CtoCの実装はコロナ禍などもあり1年後ろ倒しとなったが、サービスの高度化には取引を通じたデータ蓄積が欠かせないことからも、今後は訴求を積極化していく構えだ。

DXのさらなる活用に向けて同社が進出するのが、地域医療支援やドローン振興事業などの新規領域だ。

19年3月に大分県と締結した連携協定を皮切りに着手する新事業は、IoT(モノのインターネット)デバイスを用いた高齢者見守りサービスやタクシー配車の実証実験、ドローンを用いた遠隔地への医薬品配送など多岐にわたる。

端末情報や位置情報などの管理を一元化したほか、IoTデバイスの仕様も可能な限り共通化したことにより、ハード・ソフト両面でコスト低減と迅速な開発を実現した。こうした下地づくりが、クルマのえんで活用するデジタル基盤にも生かされているという。

大分県で指揮を執る八塚昌明ICTプラットフォーム推進部長は「共通のDXプラットフォームを立ち上げたことで、細かなニーズに応じた小規模多種類のアプリケーション開発・サービス提供が可能になった」と振り返る。

もっとも、こうした新規ビジネスは市場が発展途上にあり、ベンチャー企業の参入も相次ぐなど競争が激化する環境にある。強みとなるのが、用品小売りで培ったブランド力だ。

八塚部長は「自動車向けで培った安心・安全という訴求の切り口が、生活上のさまざまな課題に対しても適用できる」と話す。今後はオートバックス店舗リソースを対面型の地域支援窓口として活用するなど、新規層の送客にもつなげたい考えだ。

手探りで新規ビジネス開拓を進める中、アイデアの源泉として地元の若者の声も拾い上げている。大分県立情報科学高校(大分市)に昨年設置したICT研究ラボでは、商業科・工業科生徒の通年教育に研究カリキュラムを組み込み、双方向型授業を通じて新たな発想を募っている。

配車サービスも、「地域特性を知る生徒からのアイデアが元となって実装に至った」(同校の堤雄思郎教諭)という。今年度は教育・研究に携わる同社スタッフを約2倍の15人に増員し、提携先の学校も増やす方針だ。

今後は行政との連動も強化して地域での存在感を高め、近い将来の収益安定化を図る考えで、すでに大分県庁には同社社員が出向して地域振興に携わっている。

八塚部長は「少子高齢化が加速する地方部こそ、データ循環型の社会モデル構築が不可欠。同様の課題を抱える他地域にも目を向けつつ、産学官の垣根を越えたデータ外販なども検討していく」との展望を示す。

今後の構想として「同様の取り組みを23年度までに九州全県に広げ、25年度までには他地域でもモデルを構築したい」考えだ。通信型ドライブレコーダーの市販市場進出など、カー用品にもICTの波は到来している。

地域連携と一体的に開発環境を整備することで、自社ブランドの車載IoT製品のラインアップ拡充につなげるなど、既存事業とのシナジーも創出していく方針だ。

カテゴリー 社会貢献
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞5月21日掲載