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2021年5月18日

自動車セキュリティー市場に熱視線 コネクテッドカー見据え

インターネットで外部とつながるコネクテッドカーの普及や自動運転の実用化を見据えて、自動車のサイバーセキュリティー関連のビジネスが活発化してきた。

セキュリティー監視サービスや認証適合支援など、部品メーカーに加え、ITや第三者認証機関などが自動車セキュリティー分野の市場開拓に乗り出す。

自動車各社は、無線通信で車載ソフトウエアを更新するOTA(オーバー・ジ・エア)対応を本格化しており、自動車の安全を確保する上でもサイバーセキュリティー対策の重要度が増している。専門知識が必要な自動車セキュリティーという新市場の創出に業界は熱い視線を送っている。

昨年6月に国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)で自動車のサイバーセキュリティーとソフトウエアアップデートに関する国際基準が成立した。

国土交通省は国際基準に先行して国内法を整備、自動運転車のサイバーセキュリティーとソフトウエアアップデートに関する組織の設置と車両対策の実施を自動車メーカーに義務付けた。

これによって自動運転を実用化する自動車メーカーはサイバーセキュリティーマネジメントシステム(CSMS)とソフトウエアアップデートマネジメントシステム(SUMS)を構築しなければならない。

また、自動車のライフサイクルにおけるサイバーセキュリティー対策を求める国際規格「ISO/SAE21434」も発行した。自動車のサイバーセキュリティー対策を実施する環境が着々と整備されてきた。

国交省は、自動運行装置「トラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能)」を備え、自動運転「レベル3」(システムの要請に応じて手動運転)を実現したホンダの「レジェンド」に対して型式指定を行った。

型式指定する上での自動運行装置の保安基準には、性能要件の一つとして「不正アクセス防止等のためのサイバーセキュリティー確保の方策を講じること」が規定されており、ホンダはこれに対応した。

自動運転車やOTA対応車の開発を加速している自動車メーカーは、サイバーセキュリティー対策という新しい分野での対応を急いでいる。

こうした動きに合わせ、これまで自動車関連とはほぼ無縁のIT企業などを含め、自動車セキュリティー需要の開拓を狙う企業が相次いでいる。

パナソニックは3月、米国のコンピューターセキュリティー関連を手がけるマカフィーと提携し、コネクテッドカーのセキュリティー監視サービスの事業化に向けて「車両セキュリティ監視センター(車両SOC)」を共同で運営することで合意した。

車両SOCは、車載システムへの不正アクセス検知や、サイバー攻撃情報、異常ログを解析するSIEM(セキュリティー情報イベント管理システム)と、データを解析する分析官で構成する。

SIEMが車両のセキュリティー関連データを人工知能(AI)などを使って解析し、分析官が効率的、簡易にデータを解析できるように可視化する。

分析したデータは契約した自動車メーカーに提供して、プログラムアップデートやシステム改修に役立ててもらう。監視サービスは課金制度を検討しており、数年内に事業化する計画だ。

また、フィンランドのサイバーセキュリティーサービス会社エフセキュアと半導体商社の加賀FEI(旧富士通エレクトロニクス、荻原淳二社長、横浜市港北区)が自動車セキュリティー対策での協業で合意した。

自動車メーカーや車載機器メーカーが開発する車両、IoT(モノのインターネット)機器に対するセキュリティー診断などのコンサルティングサービスを提供する。

第三者認証機関の自動車セキュリティー対策への参入も始まっている。テュフラインランドジャパン(トビアス・シュヴァインフルター社長、横浜市港北区)とULジャパン(山上英彦社長、三重県伊勢市)は、国連規則「UN―R155/R156」、国際規格「ISO/SAE21434」に則った自動車サイバーセキュリティーの型式認証取得を支援するサービスを提供中だ。

サイバーセキュリティーとソフトウエアアップデートに関する国際基準への適合を支援するほか、自動車メーカーや部品サプライヤーに求められるCSMS、SUMSの構築をサポートする。

ISO/SAE21434については、組織やサプライチェーン、車両ライフサイクル全体にわたる広範囲な対応が求められることから、リスクマネジメント体制の構築、リスクの特定、評価、低減のための戦略策定などを支援する。

OTAによるソフトウエアアップデートに関する取り組みも進む。日立製作所はホンダの自動運転レベル3を実現したレジェンドで、OTAを使ったデータ更新技術をセキュリティー対策を含めてワンストップで提供している。

レジェンドは、日立アステモ(ブリス・コッホ代表取締役プレジデント&CEO)が自動運転用電子制御ユニット「AD ECU」と、更新データを受信、管理する「OTAユニット」を供給している。

日立グループが提供するソフトウエアアップデートデータを送信する「OTAセンター」と組み合わせることで、セキュリティーレベルの高いソフトウエアアップデート環境を提供する。

本格的なサイバーセキュリティー領域は、自動車メーカーにとっても新しい分野で、専門的な知識を持つ外部の力を頼りにしている。

通信や電子・電気部品などで豊富な経験とノウハウを持つサプライヤーや、インターネットのサイバーセキュリティーソリューションを手がけてきたITなどは、コネクテッドカーや自動運転車の普及を見据えて、自動車サイバーセキュリティー対策という新市場に大きな期待を寄せて市場開拓を本格化している。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞5月7日掲載