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2021年4月22日

日本交通科学学会 高齢運転者の事故防止へシンポ

日本交通科学学会(JCTS、有賀徹会長)は、都内で「第15回交通科学シンポジウム」を開催した。今回は「高齢運転者の事故予防に向けた運転能力の適正評価と早期介入」がテーマ。

交通安全を研究する医学、理工学の専門家が最新の研究成果を発表するとともに、総合討論を通じて交通事故の防止策や、自動運転をはじめとした技術開発の方向性を議論した。

シンポジウム冒頭では、有賀会長(労働者健康安全機構理事長)が「高齢者の4人に1人は認知症または軽度の認知障害。軽度な認知障害をなんとかしていかなくてはならない」と、車の運転をはじめとした社会参加を高齢者に実践してもらうための道筋を探るという議論の方向性を提示した。

講演には5人の専門家が登壇。まず滋賀医科大学社会医学講座の一杉正仁教授(JCTS副会長)が「高齢運転者による事故の実態と解決すべき問題点」をテーマに法医学で培った見地を披露。75歳以上の高齢者は工作物衝突や路外逸脱といった車両単独の事故が多いが、車両の事故予防技術の進歩によって事故回避が可能になるとした。

その上で、高齢になっても訓練や工夫で技術や能力を維持できている人がいるため、運転シミュレーターを利用した訓練をはじめ科学的な知見と支援策が安全な運転の継続に有効だとした。

慶応義塾大学医学部総合医科学研究センターの馬塲美年子助教の講演テーマは「高齢運転者の自動車事故における法的責任と予防策について-刑事判例からの検討-」。自動車運転死傷行為処罰法の施行後に発生した65歳以上の高齢者による事故の刑事判例を調査した結果、悪質性が認められるケースでは公判が開かれる可能性が高まり、実刑判決が下されていた。

過失運転の刑事責任は免れないが、高齢運転者の事故は認知症患者の免許を取り消すだけでは解決できないので、自らの運転経験を過信することなく、加齢に伴う運転能力の低下を自覚できるようなサポートが必要だと提言した。

芝浦工業大学工学部の廣瀬敏也准教授は「自動運転から手動運転切り替わり時のドライバー応答について」を講演。「レベル3」(限定領域での条件付き自動運転車)の自動運転システムを搭載した車両で、自動運転から手動運転への切り替わり時におけるシート背もたれの角度などドライバーの姿勢が運転特性に及ぼす影響の検討結果を発表した。

60歳以上のドライバーに参加してもらい高速道路走行中に衝突回避で自動運転から手動運転に切り替わるパターンを実験したところ、切り替えまでに必要な移行時間(警報提示のタイミング)が5・5秒以上となったほか、背もたれ角度が大きくなるとわき見の割合が増加する傾向が見られたとした。

玉川大学工学部の三林洋介教授は「高齢者の情報処理と運転能力評価」がテーマ。直近の認知機能検査の結果、交通事故を起こした75歳以上の高齢者で「認知症の恐れがある」もしくは「認知機能低下の恐れがある」とされた割合が高まることがわかった。

さらに高齢者の実験では、運転中に「知覚」「認知」「記憶」「判断」などの情報処理が重なると反応時間が増加し、これらに聴覚情報が重なるとさらに反応時間が延長された。若齢者では情報の重なりによる影響が認められなかったため、高齢者の特性が明らかになった。

山梨大学大学院総合研究部の伊藤安海教授は「高齢運転手診断・リハビリシステムの提案-高齢者個人の特性に合わせた対策-」を講演した。高齢者の事故防止では年齢による免許の一律返納やサポカー限定免許といった画一的な対策が検討されているが、そのような対策ではQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を守れない。

課題解決に向けて、高齢者の脳機能検査やアンケートなどを実施し、その結果と簡易ドライビングシミュレーションを用いた危険回避能力との関係を継続的に調査。これらによって、個々の事故リスクや有効な運転リハビリの内容を高い精度で推定できることを明らかにした。

総合討論では講演者が意見を交換するとともに、自動車メーカーをはじめとした参加者と質疑を行い議論を深めた。

カテゴリー 展示会・講演会
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞4月19日掲載