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2021年4月21日

「ワンウェイ方式カーシェア」活用模索 移動の自由度拡大

地域の交通課題解決に向けて、行先で乗り捨て可能な〝ワンウェイ方式カーシェアリング″の活用を模索する動きが広がっている。カーリース会社や石油元売、自動車ディーラーなどが「出発地点への車両返却」という縛りをなくしたカーシェアのニーズ検証に乗り出した。

公共交通機関の乏しい地域で利便性の高い移動の足を提供するという社会貢献と、サービスの持続に必要な収益性をいかに両立するのか。各社のノウハウづくりが注目される。

オリックス自動車(上谷内祐二社長、東京都港区)は、3月から東京などの企業誘致に力を入れる福島県会津若松市と郡山駅(福島県郡山市)の間をワンウェイカーシェアで結ぶ実証実験をスタートした。

東京の仕事先との往来が多い法人を対象に、新幹線が停まる郡山駅までの移動手段としての有用性を検証している。

会津若松駅からおよそ2・2㌔㍍の距離にあるオフィス「スマートシティAⅰCT(アイクト)」。会津若松市が首都圏などの情報通信技術(ICT)関連企業の誘致を目指して2019年に整備したこの拠点には、コンサルティング会社のアクセンチュアをはじめ三菱商事、ソフトバンクなど31社が入居する。

ただ、郡山駅まではタクシーや在来線などを乗り継ぐ必要があり、首都圏へのアクセス向上が課題となっていた。

こうした中、同オフィスに20年9月入居したオリックス自が郡山駅へのアクセス向上で目を付けたのが、ワンウェイ方式のカーシェアだった。オフィス入居者専用の車両4台、駅周辺とオフィスに駐車場8台分を用意して、拠点間の乗り捨てサービスを開始した。

コロナ禍で首都圏に緊急事態宣言が発令された最中に始めたため、利用者の確保を心配したが、立ち上がりは順調だった。

今後は事業性とシステムの完成度、利用者ニーズを検証しながら、本格サービスにつなげる考え。同事業を担当するオリックス自の齋藤啓・会津イノベーションセンター長は「公共交通を補完する移動手段。交通インフラの一つとして活用してもらいたい」と狙いを述べた。

将来的には会津若松市内の観光用途でワンウェイカーシェアを活用する構想も持つ。

さいたま市、石油元売大手のエネオスホールディングスなどは、さいたま新都心駅周辺エリアで超小型の電気自動車(EV)を活用したワンウェイカーシェアを開始。8カ所あるステーション間であれば自由に発着できるサービスを実証実験している。

狙いは、住民の日常生活におけるカーシェア需要の取り込みだ。実験には超小型モビリティの開発・販売を手がけるFOMM(鶴巻日出夫CEO、川崎市幸区)の車両を使用する。

片道利用を可能とすることで、発着が同一ステーションに限られる一般的な〝ラウンドトリップ方式〟と比べ、利用の自由度を格段に高められる。借りた場所に車両を返す必要がないため、出勤時の子供の送迎、急な悪天候時の移動など、生活シーンに応じてフレキシブルに活用できるという。

当面は10台の車両と、8カ所合計で22台分の駐車スペースを使用し試す。規定エリア内であれば、どのステーションにも返却できるようにした。

同エリアでシェアサイクルとシェアスクーターを運営するオープンストリート(大坂宗弘代表取締役、東京都港区)のプラットフォームを活用し、複数モビリティの中から最適な移動手段を選択可能にしたことも特徴だ。

自動車ディーラーでは、群馬トヨペット(大山駿作社長、群馬県前橋市)が地元大学の学生などを対象にした取り組みを始めた。

前橋工科大学(今村一之学長)の「団地再生プロジェクト」の一環として「トヨタシェア」を活用した新たなワンウェイ方式のカーシェアを展開している。カーシェアで地域の足を補う事例の一つである。

前橋市内の広瀬団地と大学にそれぞれステーションを設置し、片道利用できるようにした。通常のカーシェア用システムを活用するため使い勝手などに課題があるが、本格稼働に向けてニーズと最適な配車方法の検証を進める。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 大学・専門学校,一般,自動車業界

日刊自動車新聞4月14日掲載