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2021年4月14日

開発進む水陸両用自動運転バス 埼玉工業大、実験車両を公開 

埼玉工業大学(埼工大、内山俊一学長、埼玉県深谷市)は、ITbookテクノロジー(菊田志向社長、東京都港区)などと共同で展開する「水陸両用無人運転(運航)バス」の実証実験車両の製作状況を報道陣に公開した。

製作を担当する埼玉県内の車両改造会社での作業は、ステアリングとペダルの操作を自動化する電動ユニットを組み込み作動実験を行う段階に突入。世界初の水陸両用自動運転バスの実現に向けた研究開発が着々と進んでいる様子をアピールした。

実証実験は、埼工大と群馬県長野原町、エイビット、日本水陸両用車協会、ITbookホールディングスの5つの組織が参加する共同プロジェクト「水陸両用無人運転技術の開発~八ッ場ダムスマートモビリティ~」で実施する。

群馬県の八ッ場あがつま湖(八ッ場ダム)で運行されている水陸両用バスを自動運転に改造し、無人運航や遠隔操作技術を実証する。バスは長野原町が所有している。

車両開発は埼工大とITbookホールディングス子会社のITbookテクノロジーが担い、自動運転(運航)、離着水、離着桟、水上障害物の回避、遠隔操作技術などの機能を具体化する計画だ。開発期間は昨年6月から22年3月までとなっている。

今回、開発現場を公開したのは車両開発の途中経過を広く発信するため。水陸両用バスは夏から秋にかけてあがつま湖の観光イベントで運行されているが、湖面の凍結にともない運休する冬場を利用して、自動運転化の改造を行っている。

まずは、運転制御の自動化にかかせない各種操作機構の電動化を進めている。電動化は、福祉車両の架装・改造事業を手掛けるミクニライフ&オート(埼玉県加須市)と協業。

ジョイスティックで操作する運転装置をはじめ、ミクニが福祉車両で培ったノウハウを自動運転に転用する。「モーターやアクチュエーターも福祉車両と同じ。ソフトウエアも同じものを使っている」(ミクニ)という。

操作機構は水陸両用車のため陸上用と水上用の2系統となる。ミクニは車両として操作するためのステアリングとペダル(アクセル・ブレーキ)、船舶として操縦するためのキャプテンハンドルとスロットル(前進、後進)をそれぞれ電動化。福祉車両と同じくジョイスティックで運転可能にする。

操作機構を電動化した上で、自動運転技術を組み合わせる。埼工大とITbookテクノロジーは、ミクニでの車両改造と並行してソフトウエア開発を進めている。車として制御する際のソフトウエアには埼工大が磨きをかけた中型バスの自動運転ソフトを調整しながら活用するという。

自社位置推定や周辺の物体認識に利用する検知デバイスはライダー4台、単眼カメラ4台、GNSSアンテナ2基などを使用する計画だ。

船舶用の自動運航ソフトウエアは新規開発する。開発のポイントは離着水時の制御という。ITbookの開発担当者は「人間の操作でも非常に気を使うところ。ちょっとでも斜めに入ってしまうと失敗する。自動でやるのはかなり難しい領域になる」と難易度の高さを述べた。

そのハードルの一つは、湖面の高さが変化した時に自車位置を推定できるかどうか。ダムの放流によって湖面高が変わると入水ポイントも変わってしまうことが問題になる。

埼工大で開発を指揮する渡部大志教授は「入水位置が変わるとスキャンマッチングもずれる。湖面が高いときや低いときのデータをスキャニングして入れ込むことになるだろう」と対応策を示した。

離水時については、車として陸上を走るためのエンジンをかけるタイミングを計ることが課題になるという。GPSや車速からタイヤの空回りを判定して最適化する方針だ。

車の自動運転と船舶の自動運航の両立をめざす今回のプロジェクト。渡部教授は「ハードとソフトを融合していかないと自動運転・運航は実現できない」と指摘する。

水陸両用無人バスに組み込む電動化ユニットは福祉車両のメカ技術であり、このメカ技術がベースにあってこそソフトウエアによる自動運転が実現する。自動運転車として走り出すのは来年3月を予定している。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 大学・専門学校,自動車業界

日刊自動車新聞4月7日掲載