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2021年3月18日

モビリティの将来を産官学の専門家ら提言 ITSフォーラム

ITSジャパン(佐々木眞一会長)は、モビリティを軸とした社会課題の解決や自動運転の最新動向の発信などをねらい「第15回日本ITS推進フォーラム」をオンラインで開催した。

東京大学生産技術研究所の大口敬教授をはじめとしたITS(高度道路交通システム)に携わる産官学の専門家、自治体として初めて自動運転バスの定常走行を開始した茨城県境町の橋本正裕町長ら23人が講演し、モビリティの新たな価値創造に向けた提言と取り組みの進ちょくを披露した。

同時に来年度スタートするITSジャパンの「第4期中期計画」案の概要を公表した。

フォーラムでは、まず基調講演で東大の大口教授が「将来の社会像とそれを支えるモビリティのあり方」をテーマに未来のモビリティの方向性を示した。

「統合的持続可能な交通における自動運転の役割」などを切り口として、モビリティサービスとオーナーカーそれぞれに求められる自動運転の役割、都市・国土計画と新技術の整合・連携の重要性、コロナ禍後のモビリティなどを解説。

さらに新たな移動サービスとMaaS(サービスとしてのモビリティ)による統合型モビリティサービス、インフラ情報を活用した協調型自動運転の実現に向けた課題を指摘した。

続いてITSジャパンが活動状況を報告するとともに、2025年度を最終年度とした第4期の5カ年中期計画案を宇津木年典常務理事が報告。

「安全・快適・効率的な移動に加え、多様なライフスタイルを支える移動のバリューチェーンの実現に貢献」することを念頭に、移動システムの高度化・統合的移動サービスへの進化を目指していくとした。6月の総会で正式決定を予定する。

行政からは内閣官房IT総合戦略室内閣参事官の平井淳生氏をはじめ警察庁、総務省、経済産業省、国土交通省の担当者が登壇した。

ITSジャパンの自動運転研究会は、モビリティ・イノベーション推進連絡協議会と共同で「産学連携/文理融合による自動運転実現に向けた取り組み」を発表した。

その中で名古屋大学の森川高行教授らは「低速度(時速20㌔㍍以下)で走行し人や社会と協調するレベル3/4」の自動運転の導入にむけた取り組み」と、愛知県豊田市で実施した「中山間地域における高齢者の移動支援」について報告した。中京大学教授の中川由賀氏は、自動運転サービス事業化のための法的課題を指摘した。

併せて各地で行われた実証実験の成果を発表。京阪バスの大久保園明氏は、バス自動運転の実証実験で、試乗事前のアンケートの期待度に対して試乗後の満足に低い傾向がみられたことや、自動運転中に想定外の〝手動介入〟が1便あたり0・44回あったが、実験中に改良し改善傾向がみられたことを報告した。

自動運転車の運行事業を展開するソフトバンク子会社のボードリー(東京都千代田区)の佐治友基社長兼CEOは、自動運転バスの実証実験および導入成果などを発表した。これを受けて、同社の協力で自動運転バス(仏製の「ナビヤアルマ」)の運行を昨秋開始した境町の橋本町長が登壇し、導入経緯と自動運転バスを活用した街づくり構想を披露した。

境町は、各地の自治体と同じく高齢化、移動の足の確保などの課題を抱えており、その解決に向けて先陣を切って自動運転バスを導入した。橋本町長は「運行経費が年間1億円以上かかるため当初は町議会で反対意見が出た。

しかし自動運転を入れれば、高齢者が免許を返納しても、安心して生活の足に困らない街にすることができる。大きな予算ではあるが無駄遣いになるのか」と説得し、承認にこぎ着けたという。

住民から事故責任の所在や自動運転の信頼性を心配する声が挙がったが、実際に乗ってもらい徐々にメリットを浸透。現在は自動運転バスの走行経路上にマイカーの駐車を見合わせるなど、円滑な運行に協力してもらえるようになった。今後は技術進化を見据えながら経路拡大、高速バスとの連携を進め住みやすい街づくりにつなげていく。

フォーラムのクロージングでITSジャパンの天野肇専務理事は「今回も大勢の方にお話いただいた。ITSは工学系だけでも範囲が広いと前から言っていたが、それが社会科学、人文科学にも広がってきている。今後も多くの方々に説明して意見をいただき、ブラッシュアップしていきたい」と、第4期の始動に向けて意欲を述べた。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞3月8日掲載