2021年3月17日
タクシー会社発 山口のIT企業、MaaS事業全国展開へ
地方のタクシー会社を母体にするIT企業がMaaS(サービスとしてのモビリティ)事業の全国展開に乗り出す。REA(坂田敬次郎社長、東京都中央区)は山口県に本社を構えるタクシー会社である山口第一交通によって設立されたモビリティ専門のIT企業。MaaSアプリやAI(人工知能)を活用した乗合配車システムなどの開発を手掛ける。
2月末までは山口県とともにMaaS用ウェブアプリ「ぶらやま」の実証実験を行っており、今後は同アプリの外販を視野に入れ、地方自治体などへのアプローチを強化していく。
タクシー会社を母体にしたIT企業は珍しい。もともとはタクシーの稼働率を上げるためのシステムを自前で開発することが目的だったが、MaaS事業として独立させたのは、日本の地域社会で進行する交通インフラの脆弱化が背景にある。
地方ではバスなどの公共交通機関が減り続け、路線は残っても運行本数が極めて少ないのが実情。また、高齢者の免許返納が増える中、地方で日常生活を営むための重要な移動手段がなくなっているのが実情だ。
移動機会の減少は消費行動の減退につながり、最終的には地域経済の縮小を招く恐れがあることから、山口第一交通は地域社会が抱える移動問題を解決し、社会インフラを進化させるためREAを起業することにした。
REAの強みは、約40年にわたり地域密着型の交通事業を経営し、地方の交通事業や実態を把握しているタクシー会社が母体だということだ。地域や利用者のニーズに合わせたシステムを提供するため、タクシーのみならず、バスや電車、自転車、超小型モビリティなど多様な交通網を効率的に接続できる新しいモビリティサービスの提供を目指している。
山口県が2月末まで実施していた新たなモビリティサービスの実証実験では、同社が開発したMaaS用ウェブアプリ「ぶらやま」を活用して行われた。新山口駅北側で整備が進む山口市産業交流拠点施設の開業に合わせて実施したもので、タクシーツアーや超小型モビリティの貸し出し、デジタルチケットの販売、シェアサイクルとの連携を実証した。
同アプリの特徴は複数の移動手段と多様なサービスを組み合わせ、地域振興や経済活性化に寄与できる点にある。山口での実証実験ではタクシーツアーや超小型モビリティ、シェアサイクルの予約がアプリ上で行えるだけでなく、これらの移動手段を組み合わせた経路探索、地元の温泉施設と連携し浴場の混雑状況も確認できるようにした。
地酒セットが割引価格で購入できるデジタルチケットも販売。「地域も巻き込んで人の移動をサポートする」アプリとなっている。
実証実験は2月末で終了したが、さらに魅力あるサービスとして再開できるように改修を進めるという。同時にREAはアプリの外販も本格化する。地域交通の新たなインフラ構築を模索する地方自治体などを中心に売り込みを図る考えだ。
同社はMaaSアプリのほか、AIを使った乗合配車システム「ノルー」も提供している。利用者の予約状況に応じてAIが自動的に最適なルートを判断するシステムで、山口県宇部市での実証実験や実際の採用事例も出始めている。
システム開発のみならず交通事業者向けの業務改善コンサルティングも提供する。モビリティとコンサルティングの2つのサービスを軸にITを駆使。交通インフラが脆弱化し、交通弱者も少なくない地方でタクシー事業を営んできた強みとノウハウを全国展開し、人と社会に寄り添ったMaaS社会の実現に寄与していく考えだ。
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
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対象者 | 自動車業界 |
日刊自動車新聞3月10日掲載