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2021年3月17日

東日本大震災から10年 絶え間ないBCP見直し、調達網強靭化

2011年3月11日に発生し未曾有の災害となった東日本大震災は、企業の事業継続計画(BCP)のあり方に大きな影響を与えた。この10年間にも激甚災害が全国で相次いでおり、BCPを見直し続けることの重要性が改めて問われている。

自動車業界と企業を取り巻く外部環境、内部環境は大変革の途上にあり、BCPを実効性のある形で運用していくことは容易ではない。過去にないコロナ禍と自然災害による複合災害にも備える上で、今後のBCP遂行に不可欠なのは自助だけでなく共助のあり方とその力が不可欠となる。

東日本大震災では、部品の調達・供給網(サプライチェーン)の寸断が大きな課題となった。自動車メーカー各社は工場の稼働停止に追い込まれて、本格回復には約3カ月を要した。

各社は震災を教訓にBCPを見直し、この10年で調達網強靭化を進めてきた。こうした取り組みが最大限に生かされたのが、コロナ禍で直面した部品調達難だった。

トヨタ自動車は、サプライチェーンを〝見える化〟した社内システム「レスキュー」によって、震災前は約3週間要した部品調達に関わる仕入先の状況確認を今ではわずか1日で完了できるようになった。

世界規模に広がったコロナ禍で、調達環境は震災以上に厳しい局面を迎えたが、生産への影響は最小限にとどめた格好だ。これまでは1次サプライヤーとの関係が中心だったが、2次サプライヤー以下とのコミュニケーションを広げた結果、「原価低減の活動にも拍車がかかった」(トヨタの近健太執行役員)という。

ただ、年明けから各社で顕在化した半導体不足による生産影響が調達におけるティア(階層)の深さとネットワークの課題を改めて浮き彫りにした。2月13日に発生した福島沖地震では再び部品調達が停滞し、多くのメーカーで生産調整を余儀なくされた。

部品の共通化が進む中、サプライヤーが被災して部品供給停止に陥った際のBCPの重要性は、福島沖地震でも再認識する契機となった。

被災したサプライヤーの復旧業務に携わったトヨタ自動車東日本の従業員は「1週間で再稼働ができるとは想像できなかったが、他社も含めた皆で一体感を持って力を合わせたことで再稼働できた。今後につなげていきたい」と話す。

サプライヤー各社も、震災の経験を教訓に、川上の仕入先まで網羅するサプライチェーン情報の見える化を進めてきた。こうしたBCPが、その後の自然災害やコロナ禍の影響を最小限に食い止める防波堤になったのも事実だが、「感染症の流行を前提とした働き方のあり方を模索する」(豊田合成)という新たな課題も浮き彫りになった。

感染症やサイバーテロといった新たな緊急事態も視野に入れながら、従業員の命を守り、仕入先を支え、ニューノーマル(新常態)下での労働環境を整備することが、サプライヤーとしての供給責任を果たすことにつながっていく。

震災からの復興に向けて、いまだ共助が求められていることを忘れてはならないのが、東京電力福島第一原子力発電所事故にも見舞われた福島県だ。

福島トヨペット(佐藤修朗社長)、福島県自動車販売店協会(金子與志人会長)、福島県自動車整備振興会(佐藤良也会長)、福島県軽自動車協会(塚原靖弘会長)などが出資して立ち上げた福島環境整備機構は、油水分離槽などに蓄積した放射性物質汚泥の回収、一時保管、引き渡しまでに至る適正処理の枠組みを構築。

18年度から処理活動を行っている。処理実績は今年3月で累計139拠点を見込む。回収した指定廃棄物の一時保管場所は帰宅困難区域にある福島トヨペットのふたば大熊店(双葉郡大熊町)で行っているが保管スペースはまもなく限界を迎えようとしている。

経費と収支の関係から最少人員で業務を行っていることや、環境省の対応可能件数の問題などから年間で処理できる数は限られている。本来は、原発事故を起こした東電と国が責任を持って行うべきことだが、やむなく民間で取り組んでおり、費用もかかることから難しい運営を続けている。

「まだまだ多面的に支援をいただかなければ、福島の安全・安心は確保できない」(同機構の近藤哲社長)のが実情だ。

あらゆる自然災害に対する防災計画や対策方法はない。企業のBCPのあり方も個社だけでなく、業界全体や地域社会との協働も見据えた見直しを進めるべき時が来ている。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞3月11日掲載