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2021年1月14日

日刊自連載「回顧2020 自動車業界この一年」(5)転換点、新車流通

「トヨタのクルマ全部売ります」―。2020年5月、コロナ禍による国の緊急事態宣言の最中、トヨタ自動車による全店舗全車種販売(一部車種除く)が静かに幕を開けた。国内でも唯一残っていたチャンネル制が終わりを告げたこの一年。

登録車市場で半数のシェアを握る販売網が転換点を迎えたことで、国内新車市場は、次世代に向けた「店づくり」への動きが一気に加速した。

東京都内のトヨタ系販売店がひと足早く全車種販売に移行してから1年1カ月後の5月8日。本来であれば併売化を機にトヨタ系ディーラー各社が販売攻勢に打って出るはずだった。

しかし、こうした目論見はウイルスとの戦いを前に影を潜めた。それでも管理顧客などを対象に旧専売車の受注をすべてのチャンネルで受けられるようになった4月には、併売効果で各社とも順調に成約を重ねるなど、結果的にコロナ禍での営業活動を下支えした格好だ。

実際、登録車の1~11月ブランド別新車販売台数をみると、トヨタは前年同月と比べて1桁のマイナスにとどめている。

乗用車メーカーではSUV 「ロッキー」のヒットで4割近いプラスを記録するダイハツ工業を除き、各社が2桁減の状況。チャンネルという枠が取り払われたことで、トヨタの強さがより際立ち始めた。

店づくりも旧チャンネル色がないグローバルサイン「TOYOTA」の看板を採用するケースも増えているほか、異業種とコラボレーションした拠点など、個性を打ち出す動きが活発化している。

他の系列ディーラーでも新たな売り方を模索する動きが加速した。新型コロナウイルスの感染拡大によって従来通りの営業活動に制約が出る中、ビデオ通話を活用したオンライン商談などデジタル化に活路を見出そうとする動きが目立ち始めた。

コロナ禍で2月下旬ごろからショールームへの来場者数が減り始め、3月の週末には「来店する新規客の数が前年の半分ほど」(ダイハツ系ディーラー役員)という深刻な状況になった。

4~6月の新車販売台数は前年同期と比べて3割減となるなど、人と人の接触が難しい環境に従来の新車営業は対応できなかった。

日刊自動車新聞社が全国の新車ディーラーを対象に行ったアンケート調査(9~10月実施)では、26%(回答総数160社)のディーラーが上期(4~9月)の最終損益で赤字になると回答。4~6月の販売不振が業績に大打撃を与えた。

一方、64%が商談など顧客接点でデジタルツールを「利用」または「導入予定」と答えるなど、コロナ禍がデジタル化を加速させている。

トヨタが顧客向けサイト「マイトヨタ」に販売店とユーザーが詳細な見積もりなどをやり取りできる「オンライン商談」の機能を盛り込んだほか、スズキでもビデオ通話サービスなどを組み合わせた「オンライン相談」を立ち上げるなど、メーカー各社も非接触の顧客接点づくりに本腰を入れ始めている。

一時は感染拡大の波が落ち着き、新車営業も元の姿を取り戻しつつあったものの、足元では再び感染が拡大するなどし、非接触を望むニーズは着実に増えている。

パーソナルな空間を確保できる移動手段として自動車利用が見直される傾向が出ているとの声も少なくない中、いかにして新常態(ニューノーマル)に対応した販売店づくりを進めるのか。今後のディーラー経営に置ける課題の一つとなっている。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞12月28日掲載