2020年12月18日
ガラスメーカー各社 次世代車載ディスプレーへ対応急ぐ
ガラスメーカー各社が、次世代車載ディスプレー向けカバーガラスの技術開発に注力している。車のコネクテッド化や先進運転支援システム(ADAS)の進化でドライバーへ伝える情報量が増えているため、採用が増加する統合型を始めとする車載ディスプレーの大型化と形状の複雑化が進んでいる。
これに伴い、ディスプレーを覆うカバーガラスは、強度の向上と薄さの両立をより一層求められている。
従来のカーナビのサイズは7㌅が主流だったものの、次世代製品では車室内のデザイン性やユーザーの利便性向上を目的に、12㌅ほどの大型ディスプレーが採用され始めている。
メルセデス・ベンツの新型「Sクラス」ではセンターコンソールに12・8㌅のディスプレーを採用。ナビゲーションなど各種機能の視認性を向上させた。
ホンダの電気自動車「ホンダe」は、12・3㌅のワイドディスプレーを2画面並べた超大型センターディスプレーを採用。また、ドアパネルやセンターコンソールをディスプレー化し、シームレスなデザインを演出した高級車も市販投入されている。
ガラス大手メーカーは、AGCの「ドラゴントレイル」、米コーニングの「ゴリラガラス」など、車載インテリア向けに強化ガラスの提案を加速している。
内装に多くのディスプレーを設置する高級車を中心に拡販を狙っており、「欧米を中心に引き合いが強い」(コーニング)とディスプレーの需要の拡大に期待を寄せる。
ディスプレーは通常、映像を映し出す液晶パネルの上にタッチパネルや反射を低減するオプティカルボンディングを施し、さらにその上からカバーガラスで覆う。
ディスプレーの設置箇所が増えれば、物を落とした場合や接触事故で乗員の頭や体が強く当たった場合でも割れにくいことが重要になる。また、車載ディスプレーでも「スマートフォンのような操作性が好まれる」(同)ため、強度を維持しながらもタッチパネルの機能を阻害しないように、可能な限り薄いカバーガラスが必要になる。
AGCオートモーティブカンパニーモビリティ事業本部車載ガラス事業部技術統括部長の舩津志郎氏は「ディスプレーの安全性・デザイン性・視認性の向上は、カバーガラスが貢献できる分野だ」と力を込める。
ガラスが割れる原理は、外からの力が加わることで表面に小さなひび割れが生じ、そこを起点に奥まで破壊が進むというものだ。AGCやコーニングは、外部の衝撃に対する強度を向上させるため、ガラスの表面に圧縮層を形成する技術を採用している。
ナトリウムイオンやカリウムイオンを含ませたガラスを、溶融塩(固体塩の融解状態)に浸けることで、溶融塩の中のカリウムイオンとガラスの中のナトリウムイオンを「イオン交換」させる。カリウムイオンの方がナトリウムイオンに比べ大きいため、ガラス表面に強い圧縮層ができる。
このため、表面に小さなひび割れが入っても、周囲から強い圧力が加わることで、ひび割れがそれ以上進まないという仕組みだ。同技術を採用したAGCやコーニングの化学強化ガラスは、従来品と比較し大幅な強度向上を実現している。
ディスプレーの潮流は大型化だけでなく、形状の複雑化も進んでいる。液晶パネルの貼り合わせ装置を手掛ける常陽工学(佐藤嘉孝社長、横浜市青葉区)は「3Dに湾曲した形状に対応する貼り合わせ装置の引き合いが増えている」としている。
AGCは、ガラスを加熱することで軟化させ、成型後に冷却して固める「ホットベンディング」という成型加工技術を採用し、ディスプレーの形状複雑化への対応を進めている。「複雑な形状に成型するにはもっとも適した方法」(舩津氏)だという。
ホットベンディングでは、ガラスを製品形状の金型の上に置き、軟化させた上で重力またはプレス荷重で変形させるため、厚みの制限を受けず、複雑な形状に対応できる。
冷却過程での歪みを補正する徐歪処理が必要になることや熱変形が生じやすいため、形状精度を維持するには高い技術力が必要になるが、長年ガラス加工を手掛けてきた同社の強みを生かせる方法でもある。
一方、コーニングが主に採用する「コールドフォーム」は、板ガラスを製品形状の支持部品の形に合わせて変形、固定する成型加工技術。熱処理の工程を省略できるため、「最大40%のコスト低減が見込める」(コーニング)。
ガラスの破壊限界までの形状に限定されるため、厚さのあるガラスを極度に複雑な形状には成型できないという弱点はあるものの、「インパネ向けなどゆるやかなカーブは問題ない」(同)としている。
ドライバーと車両のコミュニケーションを円滑にする上で核となるディスプレー。ガラス大手は自社技術をフル活用することで今後の需要を取り込もうと積極的に動き出している。
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
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対象者 | 自動車業界 |
日刊自動車新聞12月12日掲載