2020年12月9日
自動運行装置の現状と課題 レベル3搭載車、今年度中にも発売
今年度中にも「レベル3」(条件付き自動運転)の自動運転車が発売されることが決まり、自動運転社会の実現に向けた技術開発が一段と加速しそうだ。国土交通省は4月に自動運行装置の保安基準を施行。性能要件や作動状態記録装置などを規定した。
初の型式指定を受けたホンダ「レジェンド」には、外界を認識するLiDAR(ライダー)やレーダー、運転者の状態を監視するドライバーモニタリングカメラ、高精度地図と全球測位衛星システム(GNSS)による自車位置認識など、多くの最新技術を盛り込んだ。
ついに走り出す自動運転車。日進月歩で進化する自動運行装置についての現状と課題を整理する。
自動運転を実現するためには、走行車両の位置や向きを推定する「自車位置推定技術」が不可欠となる。誤差数㌢㍍以内の精度やリアルタイム性、場所や環境の変化に左右されないロバスト性(安定性)が求められ、現在は主に①デッドレコニング(自律航法)②GNSS③高精度地図④電磁マーカーという手法が用いられている。
デッドレコニングは、車両に装着したセンサーを使って自車位置を推定する手法。代表的な慣性計測装置(IMU)はジャイロセンサーと加速度計を使う。各センサーから得られる走行車両の速度や回転角度といった情報をソフトウエアで演算処理し自車位置を推定する。このほかタイヤの回転数や回転角を測定するホイールエンコーダというセンサーもある。
デッドレコニングは衛星信号を使用しないため、場所によって精度が変わらない利点がある一方で、その推定手法から誤差が蓄積されるデメリットもある。長距離を走れば走るほど位置推定の誤差が大きくなってしまう。
GNSSは、複数の人工衛星からの信号を受信することで自車位置を推定するもの。さまざまな測位衛星があり、米国が運用する「GPS」はその代表格。ロシア「グロナス」、欧州「ガリレオ」、中国「北斗」に加え、日本では2018年から準天頂衛星システム「みちびき」の運用を開始している。
メリットは地図がなくても使えること。半面、トンネル内では使用できず、また受信機が反射物に跳ね返った衛星信号を受信することで数㌢㍍の誤差を生むデメリットがある。「人工衛星の測位だけでは精度として誤差数㍍というのが限界」(ある位置測位サービスを手掛ける企業の技術者)というのが現状だ。
こうした誤差を解消し、推定精度を向上させる技術に注目が集まっている。ソフトバンクは同社製基準点と車両の受信機を利用し、GNSSからの受信データを補正するサービス「イチミル」を提供中。
ボッシュが開発した自車位置推定アプリケーション「VMPS」ではGNSS信号に加え、慣性力センサーや車輪速センサー、タイヤの切れ角を測定する操舵角センサーを活用。精度の高い自車位置推定技術を展開している。
自動運転には高精度地図も欠かせない。カーナビで使われる平面的な地図データではなく、道路幅や路肩線、信号の停止線、横断歩道、標識、建物の形状など、道路周辺の詳細なデータが含まれた高精度な三次元地図が必要になる。こうしたデータは、ライダーやカメラなどの計測機器を搭載した車両で計測している。
ただ、自動運転には追加データが必要になる。それが「ダイナミックマップ」と呼ばれるもの。静的な高精度三次元地図に、渋滞情報や事故情報、交通規制などの準動的な情報と、歩行者や信号情報といった動的な情報を組み合わせたものだ。
日本では、自動車メーカーなどが専門会社のダイナミックマップ基盤を設立。オールジャパンとして自動運転用地図の作成を進めている。
このほか自車位置推定技術には電磁マーカーを使う手法もある。道路上に設置した磁気マーカーを車両の磁気センサーで読み取り、車線維持と速度制御を行うもの。
遠距離の無線通信を必要とせず、トンネル内でも安定した自動走行が可能になる。位置推定精度の向上やマーカーの小型化といった課題はあるものの、NECや愛知製鋼などが開発に力を入れている。
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
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対象者 | 自動車業界 |
日刊自動車新聞12月4日掲載