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自動車産業インフォメーション

2020年11月24日

日刊自連載「インパクト 今後の自動車産業PART2」(7)ニーズが変わる

新型コロナウイルスが広まった3月以降、ドラッグストアなどの店頭からマスクやアルコール消毒液、体温計が消え、政府は石油危機時に制定した「国民生活安定緊急措置法」を持ち出してマスクの転売規制を余儀なくされた。

品不足は解消したが、見えない相手だけに人々の不安は尽きない。他の業界同様、自動車でも殺菌・抗菌ニーズや新生活様式に伴う新たな需要が顕在化つつあり、企業も動く。

旭化成は10月13日、新型コロナウイルス対策を事業化すると発表した。グループ会社が手がける殺菌用深紫外線LEDやオフィス内の環境を可視化するシステムを売り込む。同社は不織布や樹脂、センサーや電子部品などで自動車産業とも関わる。

マーケティング統括部の高木一元オートモーティブ事業推進室長は「車室内の衛生、環境ニーズは高まってくる。そうしたニーズに対応できる抗菌の繊維生地、センサー部品を提供できる場面も増えてくる」と期待する。

深紫外LEDは豊田合成も商品化した。担当者は「ユニットの効率が上がれば将来的には車載部品への応用も考えられる」と話す。

日本ペイントホールディングスは、自動車向け抗ウイルス水性塗料を開発する。販売中の家庭用塗料は光触媒効果を用い、ウイルスや雑菌の繁殖を抑える。「内装品やエアコンに使いたい」と完成車メーカーから引き合いがあり、開発を決めた。

田中正明会長兼社長CEOは「抗ウイルス製品市場は近い将来、国内で1兆円市場になる。利用者に安心・安全を提供する上でも不可欠だ」と指摘する。衛生ニーズは不特定多数が利用するMaaS(サービスとしてのモビリティ)車両でも高まりそう。素材や部品メーカーの新たな商機となる。

林テレンプ(林貴夫社長、名古屋市中区)は室内に設置する吸音パネル「エアミュート」を発売した。テレワークやオンライン会議の際の会話が明瞭になる。自動車部品技術を応用した。

カー用品販売最大手のオートバックスセブンでは「車内消臭・除菌サービス」が今年4~9月累計で前年同期の約1・4倍(件数ベース)となった。

8、9月はともに1・5倍だ。新型コロナウイルスを殺せるわけではないが、家庭やオフィスでの感染防止対策をきっかけに車内の衛生意識も変わりつつある。

同社広報担当者は「『施工者にクルマを触ってほしくない』という潜在ニーズがあるため爆発的な需要とは言えないが、引き合いが高まっていることは確かだろう」と話す。カーメイトの除菌・消臭剤「ドクターデオ」も販売が急伸し、3月には詰め替え用を加えた。

3日、静岡県の弁天島海浜公園広場(浜松市西区)で「浜松テレワークパーク構想」のプレイベントが開かれた。車両をオフィス、駐車場をコワーキングスペースに見立てた新たな働き方を提案するものだ。

同構想の委員会にはスズキやトヨタ自動車系の東海理化が名を連ねる。今月から実証を始め、来春以降の事業化を目指す。

用品業界でも、ハンドルに差し込んで固定する折りたたみテーブルの売れ行きが好調だ。「4、5月は前年の2倍の売上数量で推移した。6月以降も一定の販売数を維持し続けている」(イエローハット)という。

安心・安全に遠隔、非接触―。仕事や暮らしの見直しに伴い、さまざまな商機が生まれている。

矢野経済研究所が経営者ら約800人に「業界の将来に大きな影響を与えると思われる技術や事業機会、ビジネスモデル」などを聞いてキーワードを集計したところ、首位は人工知能(AI)で、医療、DX(デジタルトランスフォーメーション)に次ぐ4位に「次世代自動車(xEV)」が入った。クルマとその関連サービスの変ぼうぶりが注目される。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞11月6日掲載