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2020年11月20日

日刊自連載「インパクト 今後の自動車産業PART2」(6)規制が変わる

安倍政権から国の舵取りを引き継いだ菅義偉首相は「国民のために働く内閣」を掲げ、コロナ禍で顕在化した日本の弱点克服に向けて「デジタル庁」の新設や規制改革などの取り組みを急ピッチで進め始めた。

2050年に温室効果ガスを実質ゼロにする政府目標も発表。ただ、経済産業省は「新型コロナによるショックが大きい欧米の方が〝破壊と創造〟のスピードが数段早い可能性もある」と指摘する。コロナ禍で始まる世界のパラダイムシフトに日本はついていけるか。

菅首相はスピード感を強調する。コロナ禍では、互換性に乏しい中央省庁間のシステムや給付金のデータを出力して紙と照らし合わせる自治体など「世界最高水準の電子政府」(eジャパン戦略)からほど遠い姿が浮き彫りになった。

関係閣僚会議や大綱、実行計画を乱発しても縦割りや〝面従腹背〟の壁は厚い。この苦い経験がデジタル庁構想につながった。

この肝入り政策を任された平井卓也デジタル改革担当相の動きも早い。就任から約1カ月で自動車運転免許証の電子化に道筋をつけた。スピード感のある意思決定を支えるのが平井デジタル改革相と河野太郎行政改革担当相、関係閣僚と開く「2+1(ツー・プラス・ワン)」会合だ。

3閣僚が事務方の調整を経ずに議論してから政策に落とし込む。免許のデジタル化も小此木八郎国家公安委員長との場で方針をまず打ち出した。都道府県別の運転免許証管理システムを25年に統合クラウド化し、翌年にはマイナンバーカードとの事実上の一体化にも踏み込む。

平井デジタル改革相は「免許証を持っていなくてもマイナンバーカードさえあれば(免許)不携帯にならない」と話す。

「2+1会合」は赤羽一嘉国土交通相とも開いた。赤羽国交相は「自動車検査証の電子化を進めたい」と述べたほか、コロナ禍で限定的に緩和している飲食店の道路占有許可について「恒久化できないか意見交換を行った」と語った。

同省は10月からコロナ禍の緊急対応策として始めたタクシーによる飲食品の配送サービスを事実上、恒久化した。

ただ、規制改革は一筋縄ではいかない。規制改革推進会議によると、13年以来、閣議決定された規制改革実施計画に挙げられる273項目のうち、4割に当たる119項目がいまだ「検討中」の扱いだ。

立ち乗りのパーソナルモビリティは道路運送車両法や道路交通法上の制度ができたものの、公道走行には警察署の許可や誘導員の配置が要る。

燃料電池車(FCV)向けの水素ステーション(ST)も規制の見直しも急ぐ必要がある。政府もガソリンスタンド(給油所)との併設を認めたり、セルフ充てんを解禁したりはしている。

しかし、STの平均建設費用は約3億1千万円(18年度)と高止まりしたまま。20年目標の2億3千万円、25年目標の2億円は遠い。

運営費にしても「修理した部品を元に戻そうとする時、自治体への変更許可申請が要るため2週間程度の休業期間が発生する」(燃料電池実用化推進協議会)などの規制が残り、なかなか下がらない。

多くの政府や行政の関係者は、コロナ禍をきっかけとした新たな試みについて、コロナ後も「後戻りはさせない」と言い切る。ただ、政府が異例のスピードで実施した給付金や「GoToトラベル」などの経済対策は当初、メディアから散々叩かれた。

規制緩和にも同じ構図がある。大胆な見直しほど有力議員や業界団体らから水面下で緩和阻止の圧力がかかる上、規制を緩めて問題が起きた時、矢面に立たされるのは当事者である行政府だ。

規制と責任は表裏一体。緩和効果を享受するためにも、相応の義務を企業や国民は自覚する必要がありそうだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞11月5日掲載