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自動車産業インフォメーション

2020年11月19日

日刊自連載「インパクト 今後の自動車産業PART2」(5)ものづくりが変わる

リアルの「モノ」が対象の開発現場にテレワークを導入することはハードルが高い。特に日系企業は複数の企業が現場で行う「すり合わせ」を得意としており、これがメード・イン・ジャパンの高い品質を支えてきた。

人との接触を減らし、情報漏えいなどのリスクを抑えながら従来通りの高い品質をどう確保するのか。ものづくり企業の模索が続く。

「デジタル上で(金型の)製作スケジュールの共有から品質保証までを完結できる体制を目指す」とジーテクトの柿崎明執行役員は語る。

金型を用いる部品は型の精度が成形部品の品質を決める。このため、部品メーカーは金型メーカーと現場で緻密にすり合わせた金型を調達する。

ジーテクトは仕入先の金型メーカーと金型の製作日程を共有できるシステムを構築し、オンライン上で金型を調達する仕組みを2021年9月までに立ち上げる。

このシステムはもともと技術伝承のために考えた。金型の最終検査で問題が見つかった事例や、熟練技能者によるノウハウをデータベース化し、約150の検証項目や合否の判定基準を明確化することが目的だった。

コロナ禍で人の往来が制限される中、タブレット端末のカメラや測定機器を活用することで、遠隔による金型の品質検査に応用できると判断した。オンラインで金型を調達できれば、出勤や調達先への訪問を大幅に減らすことができる。

開発部門でもテレワークを試みる動きは加速している。トヨタ自動車の近健太執行役員は5月の決算発表会で「最後には実車で評価する工程はあるが、CAD(コンピューター支援設計)などのツールをリモートでも使える取り組みを急速に進めている」と語った。

沖アイディエスは、リモートでソフト開発ができるように改造したパソコンを従業員が自宅に持ち帰り、在宅勤務でも業務ができるか検証した。この結果「生産効率は少し落ちるが、業務を継続できることは確認できた」(清水智社長)という。

ものづくり企業は以前からIoT(モノのインターネット)やローカル5G(第5世代移動通信システム)、AI(人工知能)など、最新技術を活用した生産性向上に取り組んできた。この動きはコロナ禍で一段と加速している。

オートリブは、部品の企画から量産試作までの工程にMR(複合現実)を導入した。MRは現実空間と仮想空間を融合するツールだ。従来の評価工程では研究開発、生産技術、設備などの人員が集まっていたが、MRを活用することで遠隔地にいても生産部品の構造や作業などを把握でき、設計や設備の改良などに役立つ。

同社の研究開発部門でもテレワーク率は5割を超えるが、試験や評価などは〝現地現物〟が基本だった。中村順一副社長は「遠方にいる技術者同士が情報を共有しやすくなり(新しい部品の)量産時もスムーズな立ち上げが可能になった」と語る。

ものづくりのゴールである完成品のあり方を見直す動きもある。トヨタの近執行役員は「当たり前のように繰り返しているマイナーチェンジや小変更をもう一度、見直そうと社内で検討している」と明かす。

営業戦略との兼ね合いもあるが、変更部分が減れば開発現場の負荷がそのぶん軽くなり、新たな試みもしやすくなる。

品質に直結し、機密情報を扱うだけに、開発や生産現場のICT活用にはデータ改ざんなどの不正や情報漏えいへの対策が不可欠だ。ホンダは6月に外部からのサイバー攻撃を受けて社内ネットワークに障害が発生、国内外で生産停止に追い込まれた。

昨年、情報処理推進機構(IPA)に届け出があった不正アクセス件数は89件(前年比6割増)だが、届け出は氷山の一角に過ぎない。経済産業省は「サイバー攻撃は日々高度化しており、サプライチェーン全体の対策強化も必要だ」(商務情報政策局サイバーセキュリティ課)と警鐘を鳴らす。

最新技術を活用しながら新たなリスクをどう抑えこむか。開発や生産の現場では試行錯誤が続く。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞10月30日掲載