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自動車産業インフォメーション

2020年11月13日

日刊自連載「インパクト 今後の自動車産業PART2」(1)売り方が変わる

10月最初の週末を目前に控えた金曜日の夜。政府による緊急事態宣言下には人影がまばらだった羽田空港の出発ロビーに賑わいが戻ってきた。国内旅行の活性化策として国が展開する「GoToトラベルキャンペーン」が東京都発着も対象となり、事実上、国内の移動が全面解禁されたからだ。

一方、JR東日本は来春のダイヤ改正で首都圏の終電時刻を繰り上げると発表。アフターコロナの世界が徐々に姿を現し始めた。

「バーチャルでクルマを確認できる仕組みが普及すれば、ショールームとしての空間の使い方も大きく変わってくるのかもしれない」―。7月下旬、ダイハツ自動車販売協会の会長を務める愛知ダイハツの坪内孝暁社長は、デジタル化の進展によって、新車販売の姿が大きく変わる可能性に言及した。

さかのぼること3カ月前の週末。緊急事態宣言によって不要不急の外出自粛が求められる中、新車ディーラーのショールームは、これまで見たことがないほど閑散としていた。

営業スタッフは電話やメール、SNS(交流サイト)などを駆使して懸命に顧客との接触を保ったが、それでも5月の新車販売台数は前年同月比44・9%減とほぼ半減。軽自動車は単月として過去最大のマイナス幅に陥った。

こうした中、非接触での営業スタイルに活路を見いだそうとするディーラーが増えつつある。テレビ会議システムを活用したリモート商談、営業スタッフが新車の魅力を伝える動画の発信などだ。トヨタ自動車などメーカーも〝デジタル販促〟の支援に動く。動画撮影手法など系列ディーラーのデジタル化支援を担う人材を配置したインポーター(輸入業者)もある。

日本自動車販売協会連合会(自販連、加藤和夫会長)がまとめたディーラービジョン2019年版によると、自動車を保有していない20~30歳代へのアンケートで、36%が「無人のショールームの方が良い」と回答。

「通常の店舗の方が良い」を13㌽上回った。調査がコロナ禍前に行われたことを考えると、現在ではさらにこの傾向が強まっている可能性もある。コロナ禍で新車販売拠点のあり方が問われ始めた。

急速なデジタルシフトは、ユーザーとディーラーの接点にも表れ始めた。大分県のトヨタディーラーでは、ネット経由のカタログ請求がコロナ禍前と比べ1・5倍に増えた。7月に導入したオンライン商談も新規客が利用し始めている。それでも同社社長は「非接触の活動はまだ入り口の段階。課題は多い」と指摘する。

課題の一つが、営業スタッフの意識改革だ。特に訪問や対面営業を叩き込まれてきたベテランや中堅の社員にとって、デジタル世界への敷居は高い。

いすゞ自動車首都圏(小河原靖夫社長、東京都江東区)は今夏、タブレット端末を使って商談する初のセールスコンテストを開いたが、優勝したのは入社2年目の若手社員だった。

オリジナルの動画や画像を上手に組み合わせた商談スタイルは、スマートフォン(スマホ)を手にSNSを自在に操り、日常生活で動画の撮影や活用に慣れ親しんだ若者に一日の長がある。新車販売に押し寄せたデジタル化の波は、新車営業の現場に世代交代を迫り始めているのかもしれない。

横浜トヨペット(宮原漢二社長、横浜市中区)などウエインズグループ(宮原郁生代表)のトヨタディーラー4社は、デジタル化に向けた共同プロジェクトを5月に立ち上げた。宮原社長は「デジタルの世界で新車を検討する人は初めから店舗に来る確率が低い。

こうしたニーズに応えられれば、これまで取り込めていなかった層も取り込めるのではないか」と、コロナ禍をきっかけに加速するデジタル化をアフターコロナの販売戦略につなげる構えだ。

モータリゼーション(自動車の大衆化)から半世紀あまり。訪問営業を源流とし、国による登録・検査制度や自動車メーカーのテリトリー制度が堅持されている国内の流通市場は「根本的にはここ50年変わっていない」(関東の日産ディーラー社長)。

しかし、デジタル技術を駆使して非効率な商慣行を改め、多様な働き方を認めていかないと、大手といえども生き残りが難しくなることは明白だ。自販連の加藤会長は「新型コロナによって新たなスタイルがこれから生まれてくるかもしれない。新たな手法に挑戦するディーラーが増えてくれば、商習慣はガラッと変わる可能性がある」と語る。

6月に続くコロナ連載「インパクト」の第2弾では、売り方や働き方、移動手段などの変ぼうぶりを追う。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞10月26日掲載