菅義偉首相が打ち出した2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする意欲的な政府目標の実現を目指し、経済産業省が具体化に向けて動き出した。梶山弘志経済産業相は「この挑戦は日本の成長戦略そのもの」と位置付け、「(産官学の)あらゆるリソースを投入する」と力を込める。

重点分野として水素と蓄電池、カーボンリサイクル、洋上風力を掲げており、水素や蓄電池では先行している自動車産業の貢献も期待される。まずは具体的な目標年限やターゲットなどを盛り込んだ実行計画を、年内をめどにとりまとめていく方針だ。

政府は温室効果ガスの排出量と吸収量が差し引きでゼロになる「カーボンニュートラル」を50年に達成することを目指す。梶山経産相は「温室効果ガスの8割以上を占めるエネルギー分野の取り組みが重要」とし、エネルギーミックスの見直しなどを進めていくとみられる。

一方、「産業、運輸などの分野では電化や水素化が基本になる」とみており、「電化で対応できない製造プロセスなどでも水素やCCUS(二酸化炭素の回収・有効利用・貯留)、カーボンリサイクルを活用していく」考えを示した。

こうした中で重要な役割を担いそうなのが、自動車で活用が進んでいる水素や蓄電池だ。これらは不安定な再生可能エネルギーの安定供給につながる役目としても期待される。

梶山経産相も「水素はこれまで乗用車用途が中心だったが、新たな資源と位置付け幅広いプレーヤーを巻き込む」としている。蓄電池も「モビリティ分野で技術向上と投資の拡大を進め、供給網の強靭化を図る」考えだ。自動車産業がこれまで培ってきた技術やノウハウが日本の成長戦略に生かされるだけでなく、さらなる技術革新のきっかけにも役立ちそうだ。

経産省では組織体制の整備も急ぐ。すでに10月26日付で「グリーン成長戦略室」を新設した。省内横断でプロジェクトを推進する考えで、局長級をはじめ多くのセクションの職員が併任して業務を推進する。

また、若手職員による検討プロジェクトも同日付で立ち上げた。目標年次に現役世代を担っているとみられる人材の意見や考えを政策づくりにも反映させていく狙いだ。